複雑な分子の生成
ニクソンによると、タイタンの大気中で生成されている複雑な分子はガス状で存在しているため、地球から極めて容易に調べられる。これらの分子がどのように反応しているかの調査により、地球の初期の化学反応がどのように始まったかについて知ることができるかもしれない。地球では複雑な分子がその後、アミノ酸やペプチド、ポリペプチドを形成し、DNAやRNAになったという。タイタンはどのようにして濃密な大気を持つようになったのだろうか。
タイタンの大気中に浮かぶメタンの雲は、この氷衛星にあることが知られている極寒の湖や海の表面から蒸発している。
蒸発したメタンは、表面から10~15km上空まで上昇した後、冷えて液滴となって降り注ぐと、ニクソンは説明している。
だが、どのような仕組みによってタイタンがこれほど厚い大気を長期間維持できているのかについては、ニクソンはいまだに頭を悩ませている。
ニクソンによると、海にあるメタンをすべて大気中に蒸発させたとしても、地質学的スケールで長期にわたり維持することはできない。海中と大気中にあるすべてを含めても、数千万年しか維持できないという。
タイタンがどのようにして厚い大気を数十億年の時間スケールにわたって維持しているのかや、他の氷衛星がなぜ希薄な外気圏しか持たないように思われるのかは、まだ明らかになっていない。生命の前駆物質と見なされる分子に進化するタイプの化学物質が豊富に存在することのカギを、タイタンの大気が握っている可能性はあるだろうか。この点は、NASAがタイタンへの次世代無人探査計画を推進する主な要因の1つとなっている。
また、人類がこれまでに無人探査機の着陸を実際に成功させたのは、土星や木星の衛星の中でタイタンだけだ。約20年前の2005年、NASAと欧州宇宙機関(ESA)が共同で打ち上げた土星探査機カッシーニが、ESAが開発した着陸機ホイヘンスをタイタンの表面に送り込んだ。