9月27日に米ハワイ大学が運用する小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)によって発見されたばかりのアトラス彗星は、1000年以上前に分裂した巨大彗星の破片で、太陽に極めて近づく公転軌道を持つ「クロイツ群」と呼ばれる彗星に分類される。10月下旬には金星よりも明るくなると予測されていた。
核が分裂か
しかし、南アフリカ天文台の観測によると、アトラス彗星は大量のガスが蒸発し、さらに太陽の重力による潮汐力が加わったことで、核が分裂した可能性がある。これまでの予想では、アトラス彗星は10月24日から28日にかけて南半球で日の出前に、同29日から31日にかけては北半球で日没後に肉眼で観測できるようになり、金星よりも明るく輝くとの期待がかかっていた。
この彗星は、2011年12月に「クリスマスの大彗星」となって専門家を驚かせたラブジョイ彗星(C/2011 W3)と似た経過をたどるとみられていた。ラブジョイ彗星も「クロイツ群」に属しており、こうした太陽の至近を通過する彗星を総称して「サングレーザー」と呼ぶ。
「オール・オア・ナッシング」彗星
アトラス彗星が分裂したとしても、天文学者にとって驚きではない。この彗星の観測を続けている米アリゾナ州フラッグスタッフにあるローウェル天文台の天文学者チーチェン・チャン博士は、「太陽に最も接近する10月28日より前に崩壊するおそれも十分あり、そうなれば11月にはほとんど何も見えなくなるだろう」と電子メールで回答した。問題は、クロイツ群の彗星が近日点で太陽に極めて近づく軌道を回っていることだ。つまり、近日点を無事に通過できればすばらしく明るい彗星になるが、なかなかそうはいかないのだ。