英エディンバラ大学の教授を務めるコッケルは、月や火星、土星と木星の氷衛星、太陽系内のさらに遠方などで、生物工学によって改変された微生物を利用して有機物を処理するアイデアを提唱している。
これが成功するかどうかを決める要因の1つは、バイオテクノロジーを利用して地球の微生物を改良し、より頑強な生物にすることだ。改良の目的は、宇宙空間自体の真空状態、温度の大幅な変動、高エネルギーの放射線などによって通常特徴づけられる地球外の極端な環境から微生物を守るためだ。このような高度な生物工学技術は、簡単に実現できるものではなく、一朝一夕に開発できるものでもない。
それでもコッケルは、文字通りロボットマシンの大群を用いて、太陽系内で得られる原材料を微生物で処理し、工業原料にすることができると構想している。ゆくゆくは、この方法で処理された工業原料は、地球から遠く離れた太陽系の辺境にスペースコロニーを建設するのに利用できるかもしれない。
このような生物工学技術を利用する見返りは、時間だ。まるでSFのような地球外の前哨基地の建設に必要な材料を作り出すために、微生物を用いた生物反応器(バイオリアクター)を利用する創意工夫により、段階的な宇宙開発を数十年も短縮できるかもしれない。
オーストリアのグラーツで開かれた欧州アストロバイオロジーネットワーク連合(EANA)の2024年次会議の席上で取材に応じたコッケルは、この取り組みを地球に材料を持ち帰るための小惑星採掘だと誤解している人が多いと語った。そうではなくて、これは宇宙空間での人類の存在を支えるための元素を抽出することなのだと、コッケルは指摘する。
こうしたバイオテクノロジーの地球外での利用目的として、コッケルが第一に考えているのは、月の岩石からニッケルや銅や鉄を抽出するためだ。
さらに、微生物を利用すれば、希土類元素や白金族元素のような他より低濃度の元素など、玄武岩の岩塊に含まれる元素はほぼ何でも、地球上のバイオマイニングと同様のプロセスで抽出できるだろうと、コッケルは述べている。