世界最速のヘビは何か、とグーグルに質問してみてほしい。たぶん、こんな答えが返ってくるのではないだろうか。
一般に、世界最速のヘビと考えられているのはヨコバイガラガラヘビ(サイドワインダー)であり、そのスピードは時速18マイル(約29km)に達する。ブラックマンバとイースタンブラウンスネークも極めて速く、時速12マイル(約19km)に達する。
これは正しくない。その理由は、このあとすぐに説明する。
ChatGPTに同じ質問をすると、もう少しマシな答えが返ってくるが、それでもまだ正確ではない。
世界最速のヘビはブラックマンバ(Dendroaspis polylepis)。
主なファクト:
・トップスピード:陸上で最高時速12マイル(時速19km)
・分布:サハラ以南のアフリカの在来種
・体長:大きいものは14フィート(約4.3m)になることもあるが、8~10フィート(約2.4~3m)が一般的
・毒:極めて強力な神経毒をもち、世界屈指の危険なヘビ
・習性:おそろしいという評判とは裏腹に、たいていは人間を避け、追いつめられないかぎり攻撃してくることはない。多くのヘビは瞬間的な攻撃に長けているが、陸上での持続スピードの記録保持者はブラックマンバである。
これらの答えはいずれも正しくない。だが、仮にヘビのレースというものが存在し、ブラックマンバかヨコバイガラガラヘビのどちらかに自分の金を賭けなければならないのなら、私だったらブラックマンバに賭けるだろう。
簡単に言うと、『Journal of Experimental Biology』で最近発表された研究論文でも説明されているように、横ばいの動きは運動学上、スピードを出すには適していないのだ。生体力学研究で測ったところでは、ヨコバイガラガラヘビの地上での速度は時速2.2マイル(約3.5km)前後が上限だった。したがって、ごく普通の速さで歩いている平均的な人なら、この毒ヘビを難なく避けられるだろう。
ブラックマンバはそれよりもかなり速いが、それでも世界最速のヘビの敵ではない──いや、世界最速のヘビのグループ、と言うべきだろう。そのヘビたちは、まったく違う移動方法に頼っている。どんな方法かと言えば──滑空だ。
世界には滑空するヘビが5種おり、いずれもトビヘビ属(Chrysopelea)に属している。それぞれを簡単に紹介していこう。
1. パラダイストビヘビ

パラダイストビヘビ(Chrysopelea paradisi)は、空中移動の達人だ。東南アジアに分布するこのヘビは、樹冠から飛び出し、体を平らな翼のような形状にして、宙を「飛んで」、最長100フィート(約30m)以上の距離を移動できる。
地上での速さはとりたてて目覚ましいものではないが、このヘビのすごいところは、地上を移動するどんなヘビよりも速く空中を移動する能力だ。飛び出す高さと体の大きさによっても変わるが、『Journal of Experimental Biology』で発表された研究によれば、このヘビの滑空速度は、最高時速25マイル(約40km)に達するという。
体を扁平にして空気抵抗を増やし、落下を抑制することに加えて、このヘビは、空中で横方向に波打つように体をくねらせて滑空中の安定性を高めている。この行動はよく「空中を泳ぐ」と形容される。