鳥貴族の挑戦
次に、青木仮説の実地テストともいうべき事例をひとつ紹介しましょう。焼き島の居酒屋チェーンとして有名な「鳥貴族」が行った値上げです。鳥貴族は人件費や原材料費の上昇を背景に2017年10月に値上げに踏み切りました。28年ぶりの値上げだったそうです。「全品280円均一」を298円へと引き上げたので、率にして約6%の値上げです。私は鳥貴族の経営に特別詳しいわけではありませんが、同社が値上げに踏み切った経緯に関心をもっていました。鳥貴族の大倉忠司社長は、値上げ直後に行われた雑誌のインタビューでの「値上げをいつから検討していたのか」という質問に対して、「アベノミクスが出始めた頃から意識はしていました。結構早い段階です。政策として物価を上げていくというのですから、流れは変わると思いました」「後に東京オリンピックの開催も決まり、地価も家賃もじわじわ上がって、これはもう、上げざるを得ないタイミングが来ると考えていました」と語っています(「週刊ダイヤモンド」2017年11月10日)。
つまり、異次元緩和により日銀と政府が発した「デフレの時代は終わり、これからはインフレだ」というメッセージを大倉社長がしっかりと受け止め、それが鳥貴族のプライシング戦略を変えたということです。株式市場もこれを好感し、値上げの発表を受けて鳥貴族の株価は大きく上昇します。また、日銀の黒田東彦総裁も、その直後の講演で、「上場企業である外食チェーン店の中には、値上げの発表が好感され、株価が大きく上昇したケースがみられています」と、鳥貴族を念頭においたと思われるコメントをしています。
では、値上げの結果はどうだったでしょうか。図4-14は鳥貴族の価格(客単価)と数量(客数)を示しています(図に使用しているデータは同社がWeb上で毎月公表している「月次報告」から取得)。
まず客単価をみると、それまでゼロまたは若干のマイナスで推移していた客単価の前年比が、2017年10月以降はプラス4%付近まで上がっています。これが値上げ分です。次に客数をみると、それまで前年比プラスで推移していましたが、値上げとともにマイナスに転じ、翌2018年9月にはマイナス15%まで落ち込んでいます。客数の減少が客単価の上昇を上まわっているので、両者の掛け算で求められる売上金額も前年割れです。