経営・戦略

2024.10.15 14:15

物価とは何か。鳥貴族の「全品280円均一やめて株価上昇」から学べること

※これまでそこそこ高いインフレを経験してきた国では、今日の物価も全般にこれまでと同じペースで上がっているだろうと人々は予想します。これに対して、物価全般の上昇率が長い間ゼロだと、今日の物価はきっと昨日と同じだろうと人々は予想します。

※そして、この予想の違いが消費者の行動の違いを生み出します。物価はそこそこ上昇という予想の下では、消費者はこの店の値上げをやむなく受け入れます。一方、全般の物価が昨日と同じという予想の場合は、値上げを受け入れず他店に逃げるのです。
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これを需要曲線で考えると、物価が全般に上がっている場合は、需要曲線は通常の形状です。これに対して物価が全般に上昇率ゼロの場合は、この店の値上げに伴い客が逃げてしまうので、需要曲線が屈折しています。

※前節で紹介した、寡占産業の企業間の競争とは少し意味合いが異なりますが、同じ商品を扱う店舗間で客の奪い合いがあり、それが需要曲線の屈折を生んでいます。

前節で説明したように、需要曲線が屈折していると、原価が少々上昇しても、店舗は客を失うのが怖いので、価格に転嫁することを躊躇します。どの店舗も同じ状況にあるので、おたがいが牽制し合い、ある店舗での「価格を更新しない」が他の店舗の「価格を更新しない」を誘発するという連鎖が発生します。客が媒介するかたちで、ある店舗の価格と別な店舗の価格に相互作用が発生するのです。

青木仮説の検証として、日本の消費者一万人を対象に行ったアンケート調査の結果(図4-13)をみてみましょう。

※いつもの店である商品の値段が10%上がっていた場合にどうするかを尋ねると、「その店でその商品を同じ量買う」という選択肢に対しNOの回答の割合がYESの割合を15%程度上まわりました。多くの消費者は値上げを受け入れないということです。

※それではどうするかと言うと、「その店でその商品を買う量を減らす」はYESがNOを20%上まわる支持を得ています。また「その店で買うのをやめて他店でその商品を買う」というのも同じくらいの支持を得ています。

ところが、同じアンケート調査を米国の消費者を対象に行うと、「その店でその商品を同じ量買う」は、YESの回答がNOを上まわり、日本と対照的です。つまり、米国の消費者は10%の値上げをやむを得ないものとして受け入れるということです。英国、カナダ、ドイツの消費者に聞いても結果は同じで、値上げを断固拒絶するのは日本の消費者だけです。

次に、値段が10%下がる場合についても同じ質問をしました。今度は値下げなので「その店でその商品を同量買う」に多くの支持が集まっています。

※ここで意外なのは、「その店でその商品を買う量を増やす」という選択肢は支持されていないということです。値段が上がるとその商品の購入量を減らす消費者が非常に多いので、同幅の価格低下に対してはその逆の反応になってもおかしくないのですが、実際には非対称ということです。

※また、値下げをきっかけに「他店での買い物をその店に振り替える」というのも支持が限られており、値上げのときにその店舗を見限る度合いと比べると、値下げで他店の馴染み客を獲得できる度合いは限られているようです。
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