あらためて振り返ると、鳥貴族の価格更新が別な企業の価格更新を誘発するという、相互作用が欠落していたことに気づきます。その欠落ゆえに、青木仮説のとおり、需要曲線の屈折に沿って客足が激減してしまいました。ですが、原価の上昇は鳥貴族の特殊事情ではなく、同種のサービスを提供するどの企業にも共通していたと考えられます。鳥貴族の価格更新をきっかけとして、それに追随する動きが広がってもおかしくない環境でした。
価格の協調、とくに値上げ方向への協調は、一歩間違えばカルテルで犯罪行為です。しかし、米国の大恐慌期のデフレでは、デフレ脱却のために企業のカルテル行為を一時的に容認するという思い切った措置を、当時のルーズベルト政権はとりました。これについては、独禁法などを扱う分野である産業組織論(ミクロ経済学の一部)の研究者からは間違いだったとの主張がある一方で、マクロ経済学の最近の研究では、必要悪(価格のフリーフォールからの脱出に役立った)との主張がなされています。
※鳥貴族の挑戦から学ぶべき教訓は、相互作用の重要性です。相互作用の創出に日銀や政府がどのような役割を果たせるのかを考えるべきではないでしょうか。
渡辺努(わたなべ・つとむ)◎東京大学経済学部卒業。日本銀行勤務、一橋大学経済研究所教授等を経て、現在、東京大学大学院経済学研究科教授。ナウキャスト創業者・技術顧問。ハーバード大学Ph.D. 専攻は、マクロ経済学、国際金融、企業金融。著書に、『世界インフレの謎』(講談社現代新書)、『市場の予想と経済政策の有効性』(東洋経済新報社)、『新しい物価理論 物価水準の財政理論と金融政策の役割』(共著、岩波書店)、『慢性デフレ 真因の解明』(編著、日本経済新聞出版社)、『検証 中小企業金融』(共編著、日本経済新聞社)、『金融機能と規制の経済学』(共著、 東洋経済新報社)などがある。