──「ソーシャルベッティング」という言葉がありましたが、TIPSTARの象徴的な機能で言うと、他のユーザーが公開したレース予想にのっかって車券購入ができる「のっかりベット」が挙げられるでしょうか。こうしたユーザー同士のつながりや交流といった、ソーシャルの要素を追求していくということですね。
木村:そうですね、お友達と一緒にみんなでベッティングに興じてもらう。自分の予想を見せて、ああだこうだ言ったりとか、それにのっかってもらったりとか、そんな感じで広がっていくと面白いと思っています。
SNSもそうなんですけど、「なるべく余計なことは言わないほうがいいや」みたいな空気もある中で、やっぱり言いたいとか見てもらいたいとか、反応してもらいたいという欲求が強くあるんだなと痛感していたんですよね。マスメディアの方だけじゃなくて、多くの方々が発信したいのだと。
ベッティングの予想も今まではプロの予想士がやっていたわけで、本来は自分の予想は「オッズが低くなってしまうので言わない」となるところですが、みんながのっかってくれる快感のほうが強いんじゃないかという仮説に基づいてやってみたら、上手くワークしたんです。
ただで予想を公開してくださいとは言いませんと。当たったら、のっかってくれた人がその一部をキックバックする仕組みにして、どんどん盛り上がってくださいというふうにしました。
今は多くの人が自分の予想を公開して、コミュニケーションを楽しむカルチャーができつつあるのではないかと感じています。
──そうしたファン心理の洞察や仕組みを講じて実現させるあたりが、MIXIの真骨頂と言えそうです。
木村:私たちはコミュニケーション屋として、ずっと人がコミュニケーションに求めるもの、欲求といったものを深く観察、研究しながらやってきている企業ですので。
ベッティングに関しても、ただ車券を売るだけだと私たちが介在する意義がなくて、コミュニケーションで盛り上がってもらえる場にすることこそが、やるべき仕事だと考えています。
カルチャーはコミュニケーションが作っていく──泥臭く、場を作る。
──千葉ジェッツやFC東京といったプロクラブの経営・観戦事業でもそうですが、アプリや情報サイトだけでなく、競輪場の所有・運営まで手掛けられていることも印象的です。さらには、DAZNの商業施設向けサービスのセールスエージェントパートナーになったり、英国風PUB「HUB」運営のハブへの出資・業務提携を行ない、HUBをはじめとしたスポーツ観戦できる飲食店の検索・予約ができるDAZN公認サービス「Fansta」のリリースといったところまで取り組んでいます。どのようなお考えからでしょうか?
木村:TIPSTARやチャリロトなど「車券販売のプラットフォーム」と、コンテンツ生成のバリューチェーンとして重要な役割を果たす「競輪場運営」、それらへの送客機能としてのnetkeirinなどの「メディア運営」をトータルで手掛けることで、単体でも高い成長を遂げているサービスがさらにシナジーを創出していく。
そして、みんなでスポーツ観戦やソーシャルベッティングを楽しめる場、カルチャーをオフラインでも広げ、独自のポジションを確立していくことを目指しています。
カルチャーはコミュニケーションが作っていくものだと思っていて、ハブさんのようなところと組んで、ライブビューイングでみんなで盛り上がれる場を作るといったことがとても重要な取り組みだと考えています。
IT企業って持たない系、ファブレスと言いますか、不動産を持つことはある意味「悪」だというカルチャーがあると思うんですね。収益率で言えば圧倒的にインターネットだけで商売をしているほうがいいと。
ただ一方で、スポーツ界に入っていくのに、それだけでいいのか、信頼してもらえるか、といった想いがありました。
ネットだけでさらっと上っ面をやるんじゃなくて、きちんと泥臭いところも含めてやるというのがやっぱり、その産業でエコシステムになるところまで持っていく、永続的にビジネスを成立させていくことだと思っているので、施設運営までプレイヤーとしてやるべきだという考えがありました。
──とは言え、権利やステークホルダーなどが複雑に絡み合っていて、かなり効率が良くない面もある業界かと思いますが......。
木村:MIXIという会社はわりと根が真面目なカルチャーで、そういう泥臭いことも厭わずやる会社だと思っていて(笑)。
戦略的なこともありますけどそれだけではなくて、なんというか性格的に色々なことをほっとけないといったところがあるんですよね。