だがリーダーはむしろ、こうした異議申し立てを歓迎すべきだ。ロンドンにあるインペリアル・カレッジ・ビジネススクールの「責任あるリーダーシップセンター(Centre for Responsible Leadership)」による調査結果は、そう示唆している。その理由としては、前向きで建設的な異議を歓迎する企業文化が、リスクの緩和や、より適切な意思決定につながる点が挙げられている。
同センターのアカデミック・ディレクターを務め、今回発表されたホワイトペーパーの主著者でもあるセリア・ムーア教授は、こう指摘している。「チームがリーダーに異を唱えることをためらうような企業文化では、将来的に深刻な問題が生じる恐れがある。具体的には、金銭的損害やサービスの停止といった問題だ」
同教授はさらに、従業員は、自らの立場が危ういと感じれば異議申し立てをためらいかねないと指摘した。それゆえリーダーは、「上司に対して声をあげたり反対したりしてもリスクを被らないことを、部下に対して明確に示す必要がある」という。
部下が反対意見を言いやすい環境を作る
今回の研究で提示されたエビデンスからは、リーダーが適切な質問を投げかけて、配下の従業員から有意義な異議申し立てを引き出すことの重要性が浮き彫りになっている。今回の研究では、イエスやノーで答えられない自由回答の質問や漠然とした問いかけでは、異議申し立てにつながりにくいことがわかった。実際、リーダーは、特に自分との意見の相違を明らかにする問いかけに注力すべきだ。例としては、「もっといいアイデアがあると思っている人はいないだろうか?」あるいは「あなたが、この選択肢を選ばない理由は何だろうか?」といったものだ。
今回の研究では、リーダーは、部下からの異議申し立てを正当なものとして受け止め、そのアイデアに焦点を当てる必要があることも判明した。例えば、「それはもっともな指摘だ。その選択肢を採用することももちろん可能だ」といった返答だ。他方で、返答が一般論になりすぎたり、提案を感謝するだけの方向に流れてしまったりすると、効果は大幅に下がるという。
さらにこの研究では、快適でリラックスできる包摂的な環境では、個人が発言する可能性が高いことがわかった。また、正式な会議では、アイデアが適切に検討される前に議論が打ち切られてしまうリスクがあるため、徹底的な議論と、アイデアに対して異議申し立てを行うための時間を確保することも重要になる。
また、チームメンバーは、自身の見解について責任を持たされると、より健全な異議申し立てをする可能性が高くなる。例えば、「AとB、どちらの選択肢を好ましく思うか?」といった質問を投げかければ、部下の側も、どちらか特定のアイデアを支持する立場をとるよう促されることになる。あるいは、具体的なアイデアについて、メンバーによる投票を行うのも良いだろう。