食&酒

2024.09.07 15:15

覚醒する中国ワイン。黒ブドウ「マルスラン」の魅惑、陰陽リズムの調和

今、中国ワインがおもしろい。物量でみても、たとえば2023年の日本への輸入量は前年比255%増、輸入金額で189%増と激増している(財務省貿易統計による)。

LVMHが標高2600mで造る5万円の1本も。「中国ワイン急成長」の実態 に続き本稿では、驚くべき調合材を使ったビオディナミ農法について、中国国内のワイン愛好家の層についてなど、中国ワインの「今」を引き続きたっぷりと探訪していこう。


黒ブドウが9割の赤ワイン大国─白ワインも増加中


広大な中国ではどのようなワイン用ブドウが栽培されているのだろうか。黒ブドウの栽培が約9割を占める中国では、赤ワインの生産が大半だ。最も多いのがカベルネ・ソーヴィニヨン、次いでマルスラン、メルロ、現地では「カベルネ・ガーニッシュ」と呼ばれるカルメネールなどがよく栽培されている。ボルドーをモデルにしたブレンドワインの評価も高い一方、ピノノワールやシラーにもハッと驚くような逸品がある。

中国では赤ワインの人気が高いといわれるが、14億人もの人口を持つ中国が、当然一枚岩であるはずがない。中国ワイン専門家のチョン・ポー・ティオン氏によると、北部では赤ワインが確かに好まれるものの、亜熱帯に近い気候を持ち魚介料理も多い上海、福建省、広州など南部では赤ワインよりもスパークリングワインや白ワインを楽しむ傾向にあり、実際、中国のワイナリーも白ワインの生産量を増やしているという。

白ブドウではシャルドネが最も多いが、優れたリースリングやヴィオニエ、プティ・マンサンも造られている。雲南省ではフランスではすでに絶滅した交配品種のローズハニーや、ウィグル自治区ではサペラヴィやルカツィテリといったジョージア品種も少量生産されるなど実に多彩だ。「これまで味わった最高の中国白ワインはプティ・マンサン。甘口から辛口まで様々な可能性がある」とポー・ティオン氏は語る。

注目が、マルスランという南仏の黒ブドウ品種だ。カベルネ・ソーヴィニヨンとグルナッシュの交配品種で、中国には2001年頃に持ち込まれ、20年くらいでメキメキと頭角を現し中国を代表する品種になった。中国で最初にマルスランを栽培しワインを造ったのが、河北省のドメーヌ・フランコ・シノワだ。その2012年のマルスランは非常に柔らかくこなれ、14.5%というアルコールの高さや新樽率の高さを感じさせない逸品。ブースにいたベル・リー氏にマルスランの熟成能力を問うと、「これを飲んだでしょ」とワインを示しながらウィンク。

 マルスランの先駆者、河北省のドメーヌ・フランコ・シノワ。

マルスランの先駆者、河北省のドメーヌ・フランコ・シノワ。

ボルドーでは2021年に温暖化対策用の補助品種として栽培が認められた品種だけあり、環境への適応力も高いため、将来性もある品種といえるだろう。
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