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2024.09.07 15:15

覚醒する中国ワイン。黒ブドウ「マルスラン」の魅惑、陰陽リズムの調和

初のビオディナミ認証を取得 「シルバーハイツ」の躍進 

いま中国で最も熱いワイン産地のひとつ、寧夏回族自治区。なかでもヘレン山地の銀色高原にあるシルバーハイツは、国際的な評価が極めて高い家族経営のワイナリーだ。2007年の創業当初から有機農法を取り入れ、2023年には中国で初めてビオディナミ認証(Demeter認証)を取得したことで大きなニュースとなった。
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ビオディナミ農法とは、化学合成された肥料や農薬を使わず、月の満ち欠けなど天体の動きを考慮した農法のこと。土の活力を高めるため、天然素材から作った独自の調合材(プレパラシオン)を使用するのも特徴だ。例えば初めて聞くと衝撃を受けるのが、調合材500番。これは、雌牛の角に牛糞を詰めて発酵させ、ひと冬の間地中に埋めたもの。その牛糞を水で希釈して土に撒くことで、土中の微生物を増やす効果があるといわれている。

下段、右から2番目が調合材500番。シルバーハイツでは9種の調合材を用いる。

下段、右から2番目が調合材500番。シルバーハイツでは9種の調合材を用いる。

牛糞を詰めて発酵させた雌牛の角

牛糞を詰めて発酵させた雌牛の角
オカルト的に感じる人もいるかもしれないが、DRCやルロワ、シャトー・ラトゥールなどトップ生産者も多数採用するれっきとした有機農法の一種だ。その国際的な認証であるデメテール認証は、特に厳しい基準で知られる。

実は中国は世界5位のオーガニック大国だ。特に新疆、寧夏、山西、河北、そして北朝鮮の北に位置する東北の吉林といった乾燥したエリアはもともと害虫が発生しにくく、ごく自然に有機栽培が行われているという。
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中国で唯一ビオディナミ認証を取得したシルバーハイツの農場には、多様な植物、昆虫、牛や馬などの動物も共生した豊かな自然環境が広がる。家畜用の餌も自給することで、持続可能なエコシステムが出来上がっているのだ。

チャーミングな笑顔が魅力の的なオーナー・醸造家、エマ・ガオ氏。

チャーミングな笑顔が魅力のオーナー・醸造家、エマ・ガオ氏。

創業者の父とともにワイン造りの根幹を支えるのが、女性醸造家のエマ・ガオ氏だ。「世界レベルのワインを造り、この地を中国屈指のワイン産地にする」という父娘の夢を実現するため、1999年にボルドーへ留学。名門ボルドー大学で学び、有名シャトーで研鑽を積んだ後に2005年に帰国。2007年にワイナリーを立ち上げ、現在は70haでボルドー品種やシャルドネ、ピノノワールを中心にさまざまな品種を栽培している。

ワイナリーは、中国のワインベルトと呼ばれ期待が集まるヘレン山地の標高1200mの高地に位置する。このあたりは真夏は35℃超、真冬は-30℃と、温度差が約60℃にも達する典型的な大陸性気候だ。ブドウは-20℃下回ると枯死のリスクが高くなるため、ブドウ樹を凍結から守るべく冬の間ブドウは土に埋められる。真夏の暑さは厳しいが、生育期も昼夜の差が15~20℃程度と大きいため、ブドウはしっかりと酸を保ちながら熟すことが可能だ。年間降水量も200mと非常に少なく乾燥しているため、オーガニック栽培には理想的な環境なのだ。

逆に課題となるのが、非常に日照量が多くブドウが早く熟しやすいなか、糖度以外のフレーバーやアントシアニンを成熟させること。そのためにビオディナミ農法は有効で、「陰陽のリズムを整えることで、極端な気候にも対応することができる」とエマ氏は話す。調合材には、イラクサやたんぽぽなども用いるが、実は中国では人間も風邪をひいたときにタンポポのお茶を飲んだり、強壮剤としてイラクサを食べたりすることもあるという。そう考えると、調合材はブドウにとっての自然の薬といえるかもしれない。

「夜にはカモミール茶をブドウ畑に撒くこともあるわ。女の子のフェイシャルエステと一緒よ」とエマさん。

「夜にはカモミール茶をブドウ畑に撒くこともあるわ。女の子のフェイシャルエステと一緒よ」とエマ氏。

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