シャルドネはオレンジの花や柑橘系の熟した果実が香るリッチな味わいだが、かなり高めのきりっとした酸とミネラリーの印象が、輪郭を引き締めている。「夜の気温が下がるので、シャルドネもトロピカルなフレーバーに寄りすぎず、綺麗な味わいになる」とエマ氏はにっこり笑う。
筆者が驚いたのが、ピノノワールとマルスランのレベルの高さだ。すみれや赤果実の豊かな香りに、少しスモーキーなニュアンスを感じるピノノワールは、ブルゴーニュの自然派生産者のピノノワールを彷彿とさせ、無濾過ならではの旨味が余韻に長く続く。
非常に濃い色調のマルスランは、ブラックチェリーなど黒系果実やタバコの葉、清涼感あるハーブやスパイスの香りに、目隠しして飲んだらカベルネ主体のボルドーワインと言ってしまいそうだ。一方で強いタンニンと凝縮感はありつつも、柔らかくなめらかな味わいは、陽気な南仏の血筋も感じさせる。以前同ワイナリーのマルスランの垂直試飲(2017年、2019年、2021年)した際、2017年のオリエンタルな妖艶さを感じる香りと艶めかしさに驚かされたため、数年寝かせてからまた飲んでみたいワインだ。
シルバーハイツの栽培する70haのうち半分がカベルネ・ソーヴィニヨンだが、「土地に合った品種はまだ探り中。バルベーラやマルベックにも力を入れていきたい。また、地元で造られた甕(アンフォラ)を使用してオレンジワインを造りたい」とエマ氏は目を輝かせる。
ペットナットやオレンジワインも 多様化する中国のワイン愛好家
シルバーハイツでは、中国では珍しいペットナット(微発泡スパークリングワイン)やオレンジワインも生産している。中国自国でのアルコールの消費はビールや白酒がまだ主流だが、ワイン愛好家の層は着実に多様化している。高級ボルドーやブルゴーニュワインは、飲みなれた愛飲家の間では依然として人気があるものの、「景気後退のために、あまり知名度の高くない安価なワインや中国産ワインなど代替品を探し始めている」とポー・ティオン氏は分析する。都市部のソムリエや熱烈なワイン愛好家の間では、若年層を中心にオレンジワインやナチュラルワインを好む消費者も出始めている。若い層ほど新しい品種や産地、スタイルについてオープンなのは日本も中国も同じといえるだろう。
中国ワインの魅力は、何といってもまだまだ発展途上で、毎年品質が驚くべきスピードで上がるところだ。眠れる獅子が頭をもたげ、生産量・消費量ともに世界のトップに躍り出る日も近いかもしれない。