現在表面化しているのは、X線望遠鏡「チャンドラ」に対する40%、「ハッブル」に対する10%の予算削減案。これには天文学者が強く反対しているが、NASA委員会はチャンドラの運用停止をほぼ決定している。
NASAの予算問題はMSR計画にもっとも色濃く表れている。これは探査ローバー「パーサヴィアランス」が採集した火星サンプルを地球へ持ち帰る計画であり、現状では2027年の打ち上げが予定されている。しかし、その予算は2024年度から見通しが立たない状態にあり、今年2月にはNASAの一機関であるJPLの、全職員の約8%に相当する530人が解雇された。また、同時期に請負業者140人も解雇されている。レイオフされたスタッフの多くはMSRに携わっていた人員だ。
MSR計画を堅持したいJPLでは、6月に民間企業7社を選定し、同計画の複雑なシーケンスを根底から見直すことに取り組んでいる。民間から提案されたアイデアは固定価格制による契約で採用されるだろう。その最終報告書は10月までに作成される予定だ。
また、7月17日にNASAは、無人月面探査ローバー「バイパー」の開発中止を突如、予算削減を理由に発表した。同機は2025年9月に打ち上げられ、月にある水の氷を探し、アルテミス計画の一端を担うはずだった。ほぼ完成状態にある同機はいま、民間企業への嫁ぎ先を探している。
8月8日には、地球に衝突する可能性のある小惑星(NEO)を太陽同期軌道から見張っていた「ネオワイズ」(2009年打上)との通信も切られ、運用が停止された。今後このように、古い機体が順次整理される可能性は高い。
華々しく広報される計画がある一方で、抹消される計画も増えている。今後の宇宙政策がどうなるかは、11月の米大統領選によって大きく左右されるに違いない。