宇宙

2024.08.22 10:30

火星で海洋相当量の「液体の水」発見、生命存在の可能性も 利用には大きな難点が

ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した火星(NASA/ESA and The Hubble Heritage Team STScI/AURA)

火星には、表面全体を均等に覆うと深さ1km以上の海になるほど大量の水が存在することを示す証拠を発見したとする最新の研究結果が12日、発表された。この水には理論上、地球外生命が存在する可能性があるという。

重要な事実

米国科学アカデミー紀要に掲載された査読論文によると、米カリフォルニア大学のバークレー校とサンディエゴ校の研究チームが、火星の地下深くに大量の液体としての水が潜在する証拠を発見した。

研究チームは、米航空宇宙局(NASA)の着陸探査機Insight(インサイト)が収集した、火星の地震(火震)や火山性の地鳴り、隕石衝突などに起因する地震データと、地球の地下にある帯水層や油田の地図作成に用いられる岩石物理学の数理モデルを使って、火星の地下深部に貯水層が存在する証拠を突き止めた。この水は、火星の地下深くにある地殻の小さな割れ目や隙穴の中にある。

火星の内部構造の探査を目的としたNASAの着陸探査機インサイト(InSight)と火星地下の断面を描いた想像図(IPGP/Nicolas Sarter)

火星の内部構造の探査を目的としたNASAの着陸探査機インサイト(InSight)と火星地下の断面を描いた想像図(IPGP/Nicolas Sarter)

水は火星の地表から深さ11.5~20kmの範囲に位置することがデータから示唆され、既存の技術では採取できない可能性が高いため、未来の火星植民地ではほとんど利用できないと思われると、研究チームは指摘している。

それにもかかわらず、今回の発見は火星の歴史に関する重要な詳細を明らかにするものであり、もし水の採取が可能になれば、火星の地球外生命探索のための有望な場所となると、研究チームは述べている。

論文執筆者の1人で、カリフォルニア大バークレー校地球惑星科学部の教授を務めるマイケル・マンガは「もちろん(今回発見された地下水は)生命存在可能な環境に違いないと考えている」として、「地下深くの鉱床」や「海底」のような地球上の深部環境にも生物が生息していると指摘する。

「火星の生命の証拠はまだ見つかっていないが、今回の研究では少なくとも、生命の維持が原理上は可能なはずの場所を特定できた」と、マンガは述べている。

火星の水に何があったのか

現在の火星は乾燥した不毛の地だが、かつてその表面を大量の水が流れていたことを示す証拠が数多く存在する。証拠の大半は、火星表面の構造の調査から得られたものだ。火星表面では、河川や海や湖の明確な痕跡があるだけでなく、液体の水の中でのみ形成される可能性のある組成の鉱物が見つかっている。地球の生命にとっては液体の水が必須なので、湿潤な火星が地球外の微生物に適した状態だった可能性があり、地球外生命探査の重要な候補地の1つだと、多くの研究者が考えている。

一部の水は、大部分が地殻の鉱物内に閉じ込められていたり、極地の氷冠に凍結されていたりする状態で今でもまだ火星の表面で見られるが、これは数十億年前に表面を流れていた水のほんの一部にすぎないと、科学者は考えている。火星の海は、30億年以上前に大気が失われた時代に蒸発して宇宙空間に流出したと多くの科学者が考えている一方、今回の研究では、宇宙に流出したのではなく、その水の多くが地殻内部に浸透したことが示唆されると、研究チームは指摘している。
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翻訳=河原稔

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