宇宙

2024.07.25 13:00

火星探査車が硫黄の結晶でいっぱいの「宝箱」を偶然発見、NASA

NASAの探査車キュリオシティに2024年5月30日に踏まれて割れた岩石から露出した黄色い硫黄の結晶のクローズアップ画像(NASA/JPL-Caltech/MSSS)

5月30日、NASAの火星探査車キュリオシティの科学チームは目を疑った。探査車の車輪に踏まれて割れた岩石の中から、これまでに火星で確認されたことのないものが露出したからだ。それは、黄色い結晶がぎっしり詰まった「宝箱」、地質学的にいえば晶洞だった。

2012年8月以来、キュリオシティは火星の赤道地域にある大型の盆地のゲールクレーターを調査している。数十億年前にこの衝突クレーターに浅い湖があったことを、古代の砂紋硫酸塩を含有する地質体(類似の岩質で構成される地質学的構造)が示している。この地質体は、水の蒸発に伴って沈殿した硫黄系鉱物(硫黄と他の元素の組み合わせ)を豊富に含む堆積岩層だ。

NASAの探査車キュリオシティに偶然踏まれて割れた岩石から露出した黄色い硫黄の結晶(NASA/JPL-Caltech/MSSS)

NASAの探査車キュリオシティに偶然踏まれて割れた岩石から露出した黄色い硫黄の結晶(NASA/JPL-Caltech/MSSS)

科学チームはその後、キュリオシティのアームに搭載されている分析機器を用いて、黄色の結晶が元素硫黄であることを突き止めた。このような硫黄の結晶が火星で発見されたのは、これが初めてだ。

イタリア南部シチリア島の純粋な硫黄の結晶。火山ガスが結晶化して形成されたもの(D.Bressan)

イタリア南部シチリア島の純粋な硫黄の結晶。火山ガスが結晶化して形成されたもの(D.Bressan)


この晶洞石の硫黄が、同じ地域にある他の硫黄系鉱物とどのような関係があるかについては、明らかになっていない。地球では、元素硫黄は限られた条件下でしか形成されない。硫黄結晶は、硫化水素の酸化により、高温のガスや水蒸気が放出される火山性噴気孔の縁に沿って形成される可能性がある。だが、これまでのところキュリオシティの調査では、この場所で過去や最近の火山活動の痕跡は見つかっていない。また、元素硫黄は一部の鉱脈鉱床で、古い硫化鉱物の化学的変性の生成物としても見られる。堆積岩に含まれる純粋な硫黄は、硫酸塩(硫黄と酸素を含む鉱物)の微生物活動による還元によって生成される可能性があり、火星の生命探査にとっては十分に興味深い。

NASAの探査車キュリオシティが撮影した「スノーレイク(雪の湖)」と呼ばれる白色の岩石のクローズアップ画像。この撮影の9日前に発見された、内部に元素硫黄を含む岩石に似ている(NASA/JPL-Caltech/MSSS)

NASAの探査車キュリオシティが撮影した「スノーレイク(雪の湖)」と呼ばれる白色の岩石のクローズアップ画像。この撮影の9日前に発見された、内部に元素硫黄を含む岩石に似ている(NASA/JPL-Caltech/MSSS)

また、火星の岩石には、これまで考えられていたよりも多くの元素硫黄が含まれていると、科学チームは考えている。キュリオシティが偶然踏み割ったのに似た、白色の岩石が全域に分布する地帯が見つかっているのだ。

NASAの火星探査車キュリオシティがゲディズ峡谷(Gediz Vallis)の中から撮影した画像を合成して作成した360度パノラマ写真。左端に写っているのは探査車のロボットアームで、中央に見える白い岩石が広がる地帯では、岩石内部に群生する硫黄の結晶が見つかっている(NASA/JPL-Caltech/MSSS)

NASAの火星探査車キュリオシティがゲディズ峡谷(Gediz Vallis)の中から撮影した画像を合成して作成した360度パノラマ写真。左端に写っているのは探査車のロボットアームで、中央に見える白い岩石が広がる地帯では、岩石内部に群生する硫黄の結晶が見つかっている(NASA/JPL-Caltech/MSSS)

キュリオシティのプロジェクトサイエンティストで、NASAのジェット推進研究所(JPL)のアシュウィン・バサバダは「純粋な硫黄でできた岩石が広がる地帯を発見するのは、砂漠でオアシスを見つけるようなものだ」と説明している。「そこにはないはずのものだから、これからその説明をしなくてはならない。不思議で予想外のものが見つかるからこそ、惑星探査は非常に心が躍るのだ」

追加資料とインタビューはNASAから提供された。

forbes.com 原文

翻訳=河原稔

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