一方、トンキン湾事件を全体で見た場合、米国は事件前から南ベトナムを支援しており、北ベトナムと米国との間の緊張関係が悪化し、いつ衝突してもおかしくない状況にあった。庄司氏は「逆にみれば、こうした緊張状態を緩和するか、管理できる体制を築いておくことが重要になります」と語る。それは、台湾海峡や尖閣諸島などを巡って緊張する日本と中国との関係にも当てはまるだろう。
庄司氏は「1937年7月7日に起きた盧溝橋事件も偶発的な原因によるものでしたが、日中両国間に信頼関係が欠如し、十分に意思疎通がなされず、加えて両国において中央政府と現地当局者間に混乱が見られ意志統一がなされませんでした。その結果、3週間後の7月28日に日本軍による総攻撃が始まりました。日本側では参謀本部と現地の支那駐屯軍や関東軍との間、中国側では国民政府と現地の第29軍との調整がうまくいきませんでした」と語る。
日中両国は7月26日、ラオス・ビエンチャンで外相会談を行った。福島第1原発の処理水問題、中国が拘束した日本人の早期解放、東シナ海の日本の排他的経済水域(EEZ)内に中国が設置したブイの撤去などで、日中の主張はことごとく平行線をたどった。それでも、上川陽子外相が「重要なのは、双方の努力で前進を図ることだ」と語り、双方は戦略的互恵関係の推進では一致した。
現代では、サイバー空間の誤った情報がスマホなどを通じて拡散される事態も起きている。本物そっくりの動画・音声(ディープフェイク)が広がる恐れもある。ウクライナではゼレンスキー大統領が自国の兵士に投降を呼びかける、偽の動画も出回った。
日中の間で「第2のトンキン湾事件」を起こさないために、地味で無駄なように見えても、信頼関係を構築する努力の手を緩めるべきではない。
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