経済・社会

2024.06.12 18:15

米国が唱える2027年危機、米が唱えるプランに従うだけでいいのか

2024年5月6日、フィリピンのイロコスノルテ州ラオアグで、米比合同軍事演習の一環として行われた対上陸実弾演習で、ジャベリンミサイルが海上の標的に命中するのを見守る米軍兵士(Photo by Ezra Acayan/Getty Images)

2024年5月6日、フィリピンのイロコスノルテ州ラオアグで、米比合同軍事演習の一環として行われた対上陸実弾演習で、ジャベリンミサイルが海上の標的に命中するのを見守る米軍兵士(Photo by Ezra Acayan/Getty Images)

米国とフィリピンの合同軍事演習「バリカタン」が4月22日から5月10日まで行われた。両軍から約1万6000人が参加し、今年はフランスと豪州両軍も参加し、日本もオブザーバーとして加わった。米比仏の3軍による南シナ海での洋上訓練が行われるなど、中国を強く意識した内容になった。また、米陸軍は4月15日、「バリカタン」と重なる時期に米比両軍がフィリピン各地で行う合同軍事演習「サラクニブ」を契機に、地上配備型の中距離ミサイル発射装置(MRC=Mid-Range Capability)をルソン島北部に送ったと発表した。すでにロッキード・マーチンから米陸軍に引き渡されているMRC「タイフォン」とみられる。

タイフォンは、深刻な「米中の中距離ミサイル・ギャップ」を埋める手段のひとつだ。米国は1987年、旧ソ連と中距離核戦力(INF)全廃条約を締結して以降、射程5500キロ以下の中距離ミサイルを廃棄した。現在、インド太平洋に展開する中国軍の中距離ミサイルは、弾道ミサイルが約1500発、巡航ミサイルが約500発と言われている。ぼぼ、「ゼロ対2千」の勝負から、どうやってイーブンに持ち込むかが、米国が頭を痛める喫緊の課題になっている。

また、米国は歴代のインド太平洋軍司令官やバーンズ中央情報局(CIA)長官、ヘインズ国家情報長官らが、繰り返し、「中国が2027年までに台湾へ軍事侵攻する準備を終える可能性がある」と指摘している。「2027年までに準備しないと、中国に敗れるぞ」という「ツァイト・ガイスト(時代精神)」を作って、地域の同盟国を巻き込もうとしているのだ。ミサイル・ギャップを例に取れば、ロッキードの生産能力からいってタイフォンだけでは数が足りない。米国はどうするつもりなのか。

東京外国語大学の吉崎知典・特任教授は「米国は(中距離ミサイルを)、陸上、水上(水上艦)、水中(潜水艦)、空中(航空機)を、それぞれの地域同盟国の事情に合わせて配備していく考えだと思います」と語る。フィリピンは、今回のタイフォンのルソン島北部配備に対して抵抗しなかった。米軍は元々、フィリピンに対して恒久配備はできず、巡回配備だけに限られているが、今後はタイフォンを定期的に配備する考えなのだろう。吉崎氏も地上発射型の優先配備先はフィリピンではないか、とみている。防衛省も4月16日の報道官会見で「我が国に一時的に展開する計画は、承知していない」と否定している。

日本の場合は、まず水上発射型のミサイル配備が期待されているのだろう。すでにトマホーク巡航ミサイルの導入が決まっている。当初は、26、27両年度に最新式「ブロック5」(射程1600キロ)を最大400発導入する計画だった。このうち、200発を一世代前の「ブロック4」に切り替えて25年度から購入を始める。これも「2027年までに」という米国が作った時代精神に合わせた動きだろう。また、日本政府は空中発射型として、射程900キロの米製空対地ミサイル「JASSM」などを発注している。吉崎氏も「米国は水上発射型を日本に任せ、空中発射型は日米で対応する考えでしょう」と語る。

吉崎氏は、残る水中発射型については、米国で対応する考えだろうと指摘する。米軍はトランプ政権当時、核を搭載したSLCM(潜水艦発射型巡航ミサイル)-Nの配備を目指したが、バイデン政権は22年に公表したNPR(核戦略態勢の見直し)でSLCM-Nの開発を放棄した。ただ、SLCM-Nは潜水艦発射型だから、秘匿性も残存性も高い。潜水艦の運用次第では、中国にもロシアにも北朝鮮にも使える。米軍内部にもSLCM-Nの復活を望む声は高いという。
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