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2024.08.02 13:30

課徴金制度の拡大を

ただ、大規模な産地偽装の場合には、これらの金額は、不正の利益よりも少ない金額だろう。不正の利益を上回るような罰金体系にするほうがより抑止力になるはずだ。そして、不正によって倒産する場合もあるが、不正の結果(返礼品提供事業者の認定取り消しなど)ある程度の損失を被るものの、過去の産地偽装の利益に対する遡及がないのは合理的ではない。

また、自動車の型式認証のための検査結果を改ざんする、という問題については、これは決して強度や性能が足りない車をつくった、ということではなく、検査を手順通り行わず検査結果を捏造した問題らしいので、過去の車の全面リコールにはなっていない。手順を踏んだ検査という、わかりやすい規制の順守が行われなかったことを社内のガバナンス体制の問題である(経営陣が無理難題を現場におしつける)、と考えるのが一般的かもしれない。そうすると、現場の声が商品開発の企画や経営陣に届くようにしよう、そして利益の追求にブレーキをかける、という解決策の提案につながる。

しかし、より効果的な解決策は、規制の順守も利益追求の一部に組み込むこと、つまり不正をすることが、明確に長期的な利益を損ねる、というメカニズムをつくり上げることである。不正の抑止が利益の追求から自動的に導かれるようにすることであり、そのためには、検査不正で得た利益(検査不正が確認された車の売り上げに標準的利益率をかけた金額)を上回る懲罰的な課徴金を科すことである。検査不正がある確率で見つかったときに大きな損失(不正がみつかる確率×課徴金が不正による利益を上回る)が出る、というメカニズムを明示することで、利益の追求が検査不正を防ぐように機能する。経済犯罪は経済損失につながることを明確にすべきである。


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D.取得)。1991年一橋大学教授、2002~14年東京大学教授。近著に、『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。

文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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