ロシア大統領が何をするかわからない
ISSは5カ国の宇宙機関によって運用されている。NASA、JAXA(宇宙航空研究開発機構)、ESA(欧州宇宙機関)、CSA(カナダ宇宙機関)、そしてロシアのロスコスモスだ。このうち4カ国は2030年までISSを運用することに合意しており、ロシアだけが「少なくとも2028年まで」の運用を約束している。ロシアが2030年に合意しない理由は主に2つある。ISSはロシア区画と米国区画に大別されるが、とくにロシア区画における老朽化が進んでおり、その維持に消極的なことが1点。もう1点は、2014年のクリミア侵攻からウクライナ戦争に至るまで、西側諸国から経済制裁を受けていることに起因する。
ISSは本来、ロシアの補給機プログレス、もしくはロシア区画に接続するモジュール「ズヴェズダ」のエンジンによって、軌道高度が維持されてきた。ISSが航行する領域には、わずかながら大気が存在する。その大気の抵抗によってISSの速度が低下し、高度が落ちるため、数カ月に1回の割合でエンジンを噴射して速度を上げ、高度を維持する必要がある。
しかしとくにウクライナ戦争以降、ISS運用に対するロシアの態度が不透明になり、ロシアの意向によってISS廃棄の時期が決定されかねない事態となった。
いまロシアはISSを放棄し、独自の新宇宙ステーションの建設に取り掛かりたいと考えている。一方で米国は、ISSに代わる宇宙ステーションの建設を民間企業に託している。その進捗が遅延したままISSを廃棄し、地球を周回する低軌道に中国宇宙ステーション「天宮」だけが存在する状態を作るわけにはいかない。そのためNASAは、プログレスやズヴェズダ以外の手段によってISSの高度を管理する、または軌道から離脱させる必然性に迫られたのだ。
スペースX社がUSDV仕様のドラゴン2を完成させれば、あとはロシア抜きでISSが運用できる。そして、西側諸国としては宇宙を政治的駆け引きから切り離し、かつ、責任をもってISSを南太平洋に沈めることが可能となる。