4倍の推力、6倍の推進剤
ISSを落とすための機体をNASAではUSDVと呼んでいる。これは「United States Deorbit Vehicle」の略語であり、直訳すれば「米国製の軌道離脱機」となる。基本ベースにはスペースX社のドラゴン2を使用する。この宇宙船のクルー輸送用は「クルードラゴン」、物資輸送用は「カーゴドラゴン」と呼ばれているが、これをUSDV仕様の無人機として大幅に改造するのだ。
従来機には「ドラコ」と呼ばれるスラスター(姿勢制御用エンジン)が18基搭載されているが、USDV仕様のドラゴン2には46基搭載される。うち16個は姿勢制御用であり、残り30個でISSの速度を落とす。このブレーキ用スラスターによってUSDV仕様のドラゴン2は、通常機の4倍の推力を発揮する。
ドラゴン2の機体下部にはトランクと呼ばれる部位が接続されているが、それを約2倍に延長して大型化し、従来機の6倍の推進剤を搭載する。
従来機は7カ月にわたってISSにドッキングできるよう設計されているが、ISSを軌道離脱させるには1年から2年かかる。この大規模ミッションの実施に当たっては、予備テストも念入りに行われるだろう。そのためUSDVには大型の太陽電池パドルが搭載され、冗長性が高められる。その電力を無人のISSに供給することにより、最後の瞬間までISSを遠隔制御することが可能となる。
NASA長官のビル・ネルソン氏は当初、このプロジェクトに15億ドル(2355億円、1ドル157円換算)の予算が必要であることを示唆した。しかし、今回スペースXは固定価格契約のもと、最大8億4300万ドル(1324億円)でこれを受けている。予算圧縮にあえぎ、あらゆる計画を圧縮しているNASAにとっては、このうえなく都合のよい契約だと言える。