ISSを「ポイント・ネモ」へ落とす方
大気圏に再突入したISSの大部分は燃え尽きるが、チタンや鋼鉄でできた部材などは燃え尽きることなく地表に落下する。NASAはISSの制御落下に際して、「電子レンジからセダンサイズの破片が着水するだろう」と予想している。そのためISSの落下は完璧にコントロールされる必要がある。ニュージーランドの東方3900kmの海域に「宇宙機の墓場」と呼ばれる場所がある。ここは一般的に「ポイント・ネモ」として知られるが、ネモとはラテン語で「nobody(誰もいない)」ことを意味する。
ポイント・ネモは南太平洋の英領ピトケアン諸島、イースター諸島、南極のメイハー島の3島から等しく2688km離れている。つまり、ここは地球上においてもっとも陸地から離れた場所だ。陸から離れているので栄養素が少なく、生物分布も希薄なため漁船もいない。宇宙機を落とすには絶好の場所であり、過去には約300機の宇宙機がこの海域に落とされている。そして、ISSもこの海域へ落とされる。
高度410kmの地球周回軌道を航行するISSは、大気圏に再突入する3年ほど前から徐々に高度を落としはじめる。1年半から2年前にはUSDVが打ち上げられ、ISSにドッキングする。この時点でISSの高度は370~400kmにある。
高度333kmまでにクルーがISSから退去すると、USDVの噴射によってさらに降下。高度280km以下になるとISSは軌道を復帰させることができなくなる。220kmまでの噴射で進入角がさらに深まり、150kmまでの噴射で大気圏再突入のポイントが最終決定される。
専用アプリを使用すれば、ISSは地上から肉眼でも観測できるが、その速度は猛烈に速い。それを実感すれば、いかに高い精度がこのプロジェクトに求められるかが理解できるだろう。