他方で、現代の音楽は、確かに音楽単体では成立するのが難しくなっている。ただそんな中でコンセプト、ストーリーテリングやコントラストの解像度を追求して、これは体験して良かったみたいなものを作っていくことを価値とする方法はあるかもしれない。体験って消えてしまうもので、それゆえ真に贅沢です。それを新しい形式で提案したいという気持ちは強くありますし、それでしか多分音楽家は生き残れないと思います」(渋谷)
「MIRROR」では「仮に世界が終わったとしても、その過程とその後が美しければいいじゃないか? それを想像してアンドロイドとAIという終わらない存在と祝福することが現在の人間にできることではないか?」、そんな思いで舞台作品として提示したという渋谷。これからのテクノロジーと音楽はどのような関係になっていくと考えているのだろうか。
「テクノロジーと音楽は、フィロソフィーなしに使うとエンタメになって、フィロソフィーありで使うとアートになる。テクノロジー軸で考えるとシンプルな違いで、簡単なふたつの選択肢になると思います。どちらが偉いというものではありません。ただ、僕はどうかと考えると、エンタメの方はプレイヤーが混み合っているのと、もともと人を喜ばせたくて音楽をやっているわけじゃなくて、自分がやりたいことがあってやっているから、アートのほうが合っているなと思っています」(渋谷)
25年の大阪万博に出かけるオルタ4は、ステージで「しばらくみなさんとお別れです」とオーディエンスに語りかけた。「MIRROR」を観劇することは叶わないが、まだ話せない大きなプロジェクトも進行していると渋谷は話す。
2012年の初音ミク主演『THE END』から数えること12年。圧倒的な体験へと進化したアンドロイドオペラを経て、次に渋谷慶一郎がわれわれに「バンっ!」と投げかける問いはなにか?