音楽

2024.08.03 11:30

「ドS」渋谷慶一郎が振り返る、アンドロイドオペラ・東京公演

「新国立劇場での初演からホワイトハンドコーラスNIPPONの子たちは出てもらっていました。以前から障がいを持った人の表現力の強さに興味があったんです。

それは例えばバイオリンの修練による凄まじい技術といったものとは違うベクトルの強さで、自由とは何か?ということを国や人種を問わず問いかけてくる。同時に僕は西洋音楽のバックグラウンドを持ってヨーロッパで活動しているから、ヨーロッパの人とは違うこと、彼らが思いつかないことをやらないといけないという意識はいつもあるんです。

だから、障がいを持つ人たちも健常者と同じように世の中で表現できることを示すという慈善的な方向性ではなくて、彼らの表現力はいわゆる専門性と別軸の強さがあるから一緒に音楽したい、という感じなんです」(渋谷)
衣装はHATRAとNOVESTA。©Ayaka Endo

衣装はHATRAとNOVESTA。(c)Ayaka Endo

バックスクリーンにはアーティスト岸裕真を中心とする「Dentsu Lab Tokyo」の若手クリエイターたちが作る映像が映し出される。2つの生成ネットワークによってAIに100万種類以上の天使の画像を学習させ、生成された天使のイメージによって映し出される映像は、子どもたちの「手歌」をセンシングするウェアラブルデバイスにより、子どもたちの動きとリアルタイムで同期している。

また、この「Super Angels excerpts.」に先立って序曲としてオーケストラが演奏した楽曲は東京大学教授の池上高志とのコラボレーションによるAI、GPTによる作曲の最初のプロトタイプ「Who owns this music?(この音楽は誰のものか?)」。AIが生成した楽曲を渋谷が編集し、そして演奏にあたってのフレージングはオーケストラの各演奏者に委ねられていた。

第2️部は「MIRROR」。

『THE END』(12年)から一貫して「テクノロジー、生と死の境界領域」をテーマとしていた渋谷の射程は、混沌とする現代社会へと広がった。『MIRROR』(22年)を東京公演するにあたり、「世界は刻々と終わりに向かっている。この作品はその終わりと終わりの後のシミュレーションとバリエーションで出来ている」と渋谷は綴る。
オーケストラの中央に佇むオルタ4。©Kenshu Shintsubo

オーケストラの中央に佇むオルタ4。(c)Kenshu Shintsubo

オルタ4が歌う言葉はGPTが生成するもの。自分たちを規定するもの、痛みと意思、愛と狂気、死、喜びをもたらす感覚、テクノロジーによる支配、神の存在と魂の浄化、世界の終わり、そして欲望と性愛、断片的な言葉が結びつく(ように感じた)フレーズに加え、小説家ミッシェル・ウェルベック、哲学者ウィトゲンシュタインの言葉や三島由紀夫の遺作をモチーフにした楽曲も。それらが、次々にスクリーンに投影された。

オーケストラの中央に鎮座するオルタ4の横には、声明を詠う高野山の僧侶たち。6声を合成したオルタ4の声に、バリトンの僧侶たちの倍音が重なる。
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文=青山 鼓

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