バーチャルビーイングを研究するUNDER 30、佐久間洋司がある企画展での試みを振り返る。
日本でも芸術祭やアートフェアなどの文化が根付きはじめており、現代アートを題材にした企画展の機会も増えてきている。しかし、現代アートが大半の若者から縁遠いものであることは否定できない。
そもそも現代アートの価値がどのように規定されているかという視点から掘り下げると、社会への影響力という価値は軽視されているように思われる。現代アートの経済的価値に関しては、プライマリーマーケットもオークションにおける評価も大衆とは切り離されている。権威的価値に関してもアカデミアや批評を通じた価値の規定がされているが、美術館の収蔵や企画展を通じてしか大衆に接続できない。
著書『なぜ世界は存在しないのか』で知られる哲学者マルクス・ガブリエルは、アートの機能は人類の道徳的な進歩に貢献することにあるという啓蒙主義の教えを諦めてはいけないと述べている。その進歩のためには、多くの人々に働きかけるという視点は不可欠である。アートコミュニティの外にある大衆、特に若者に対して影響力を発揮できるようなアートの可能性を追求する必要があるのではないだろうか。
インターネットカルチャーからアートへ
そこで目を向けたいのが、現代アートとは対照的なインターネットカルチャーの存在だ。アートコミュニティのなかで積み重ねるように価値が規定される現代アートとは異なり、たったひとりのクリエイターがつくった作品が数百万人を超える視聴者に直接届くのがその特徴である。これまでも、初音ミクの心臓を与える「Ghost in the Cell:細胞の中の幽霊」(BCL)やボーカロイドオペラ「THE END」(渋谷慶一郎・初音ミク)など、現代アートがそれらを取り入れることはあった。一方、インターネットから商業的に成功したクリエイターたち本人が現代アートをつくった例はない。2023年末、大阪で開催された「Study:大阪関西国際芸術祭 vol .3」内で、「拡張される音楽」という企画展を行った。高度なクラフトで若者の耳を奪う人気クリエイターたちに、現代アートの新しい価値を提示することを目指してもらった。
身体の拡張たるメディアによって記録と再生が可能になったことにより、本来はその瞬間のみに存在していた音楽が何度でも同じように味わえるようになった。インターネットにおける再現性の高さはそれに拍車をかけ、一瞬のみに宿る奇跡も失われた。メディアとインターネットの強みを最大限に発揮したクリエイターたちが、現代における“一回性”を復興することが企画展のコンセプトである。