音楽

2024.08.03 11:30

「ドS」渋谷慶一郎が振り返る、アンドロイドオペラ・東京公演

4名の僧侶が力強く詠う。©Kenshu Shintsubo

4名の僧侶が力強く詠う。(c)Kenshu Shintsubo

「高野山声明の方達とは2017年からコラボレーションしてきました。声明は口伝芸術なので、伝統を受け継ぎたい若い人たちがいなくなったら伝統がなくなってしまう。その危機感から新しいことをやっていかないといけないから一緒にやってもらえないかと相談を受けて、直感的に面白そうだと思ったので1度共演して、そこから発展していきました。

アンドロイドオペラに取り入れたのは、ドバイ万博で日本の伝統芸術を取り入れて欲しいとリクエストされたことがきっかけです。声明は1200年前に始まりましたが、同時期にヨーロッパではグレゴリアン・チャントが始まっています。つまり歌を歌い、音楽として聞かせることを始めたのが東洋と西洋で同じ時期だったんです。かつ、声明は楽譜ではなく任意のピッチで調和させるもので、楽譜どおりの音程を歌う西洋音楽とは対照的ことも面白いなと思いました」(渋谷)

「MIRROR」の最後の曲である「Lust」は、密教の経典のひとつである理趣経の「十七清浄句」にフォーカスした。十七清浄句は男女の性行為や人間の欲望を「男女交合の妙なる恍惚は、清浄なる菩薩の境地である」などとして肯定したもの。このテクストをGPTに与え、生成された言葉をアンドロイドが歌う歌詞にした。

そして、オルタ4の「この最終章、私のシリコンで出来た皮膚は 合成された祝福に震えている」という絶唱で舞台は幕を閉じた。
高野山の僧侶たちの声明が重要な役割を果たす。©Kenshu Shintsubo

高野山の僧侶たちの声明が重要な役割を果たす。(c)Kenshu Shintsubo

「密教の教えを、僧侶たちがオルタ4の周りをぐるぐる回りながら唱えて、突然世界が終わるように舞台が暗転する。暴走するテクノロジーを人間が必死に押さえつけているように見える、と感想を話してくれる人が多かったですね。シヴァ神のように荒れ狂うオルタ4を僧侶が祈ってなだめている、みたいに。

または、テクノロジーに扇動されている人間たち。そういう意図もありました。赤い光や緑の光、シーンによって使い分けてさまざまな印象が浮かぶように演出しました。白い光が満ちて、暗転するフィナーレというのもうまくいったと思います」(渋谷)

渋谷は総合芸術であるオペラというフォーマットを再解釈し、西洋では着想すら出来ない要素を織り込み、ひとつの舞台として完成させていった。これまで長く綴ったように、そこには様々なコンテクストが存在し、いくつものコントラストにより表現に力強さが生まれている。そもそも、アンドロイドとオーケストラという対比からして「強い」のだ。
次ページ > 圧倒的な量のコンテクストの奔流

文=青山 鼓

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事