人気の「トロピカル・モダニズム」の背景から考えられること

このようなトップダウンのコンセプトに地元の建築家たちが異議を唱え、自分たちでアプローチを考えていくようになるまでには、数十年かかります。

インドとガーナ両国の政治リーダーが、独立後の新しいアイデンティティ確立の表現にモダニズムがマッチすると考え、建築学校の設立や公的施設のデザインチームへの若者の起用を積極的に行っていきます。その結果、ガーナではジョン・オウス・アッドー、インドではバルクリシュナ・ドーシとアディティヤ・プラカシュといった建築家たちが生まれ、欧州の建築家たちが残していった設計を自分たちのものに変えていった様子が描かれていました。

特に印象的だったのは、ドーシやプラカシュがル・コルビュジェの都市計画に対抗して設計したスケッチ群です。彼らは、ル・コルビュジェが理想の実現のために拒絶した、市場、リサイクル、畜産、食糧栽培といった機能を計画に取り入れ、住民の生活にとって持続可能なインフラと伝統を取り入れたモダニズムの再構築を熱く主張しました。
アディティヤ・プラカシュは「リニアシティ」で、道路を高くすることで市場や畜産などその下に配置し、地元の生活に必要な要素と調和した代替案を考えた。(撮影=前澤知美)

アディティヤ・プラカシュは「リニアシティ」で、道路を高くすることで市場や畜産などその下に配置し、地元の生活に必要な要素と調和した代替案を考えた。(撮影=前澤知美)

このスケッチを見て、モダニズム建築の新・ラグジュアリー的な面白さがここにあると思いました。都市におけるより良い住まいの追求という原理には魅了されつつも、その設計の一概性に疑問を持ち、自分なりのアプローチを探していく。そういった人間的な形跡が一見無機質なスタイルの後ろに隠れていることを実感したのです。

昨今のトロピカル・モダニズムの人気を「自然」「サステナブル」「地元の素材」といったスペックで評価するのではなく、このような複雑な歴史背景の上にあるものだと理解することで、われわれが近代性に期待することや、エキゾチックを求める理由が見えてくる気がしています。

私たちは日本のモダニズム建築のエキゾチック性を客観的に捉え、上記のような地域の人たちと直接対話ができるかどうか。それは、これから新・ラグジュアリーを国際的に議論していくひとつの糸口ではないかと思いました。安西さんはこの辺りのトピックから、どんなことを連想されますか?
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文=前澤知美(前半)、安西洋之(後半)

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