ペストのヒト症例は現代の米国ではまれだが、それでも毎年数人が感染している。今年は2月にオレゴン州で約10年ぶりに感染者が報告されたほか、3月にはニューメキシコ州で感染した男性が死亡した。
ペストは、ペスト菌を病原体とする感染症。ネズミ、マーモット、プレーリードッグ、ウサギ、リスなどの小型哺乳類を中心とした動物間で感染が広がりやすい。
ヒトへの感染は、保菌動物を吸血したノミに刺咬されたことが原因の症例が最も多いが、感染した動物を取り扱ったり保護具を着けずに感染者を看病したりした結果、汚染された体液や体組織から接触感染する場合もある。また、感染した人や猫などの動物の咳から飛沫感染することもある。
感染経路や症状によって3つに大別され、最も一般的な腺ペストは、細菌が体内に侵入してリンパ節で増殖することで引き起こされる。敗血症型ペストは細菌が血流感染すると発症し、腺ペストの患者に適切な治療が行われなかった場合に敗血症型に移行することがある。
肺ペストは最も深刻な病態であり、ヒトからヒトへの感染が起こる。ペスト菌が肺に到達すると発病し、早ければ菌を含んだ飛沫を吸い込んだ翌日には症状が現れ、発病からわずか18時間で死に至る。
症状は、発熱、悪寒、疲労、頭痛、リンパ節の腫れと痛みなどのほか、敗血症型の場合は皮膚や臓器の壊死や黒ずんだ紫斑が現れる。肺ペストは呼吸困難、胸痛、咳といった重度の肺炎の症状も引き起こす。
ペストは抗生物質で治療できるが、病気の進行が速いため、非常に迅速に診断・治療する必要がある。症状が現れてから約24時間以内に適切な治療を施せば回復率は高いが、適切な治療を受けられなければ腺ペストは感染者の最大60%が死亡し、肺ペストと敗血症型ペストは確実に死亡する。