カルチャー

2024.07.25 08:15

「茶の湯は日常の儀式」 リモート弟子にOpenAI社員も、無所属茶人 天江大陸の実験

茶の湯はアバンギャルド

もう一つ、天江さんが惹かれたのが、茶道のこんな気質だと言う。

「アバンギャルドな気質に惹かれます。茶の湯が発展した戦国時代には、戦国大名がプレミアのついた茶道具を競って集め、それらを権力として利用することで、戦を勝ち抜き、政治を動かしました。お茶を利用して、格下の大名が成り上がることも度々あったようです」

桃山時代から江戸時代にかけては、織田信長や豊臣秀吉を筆頭に多くの戦国大名が勢力争いに茶の湯を利用したことはよく知られている。ただ、そうした権力に媚びることなく前例を壊す精神は、現代の茶の湯でも変わらないと天江さんは言う。

「茶道や武道などの道とつく領域で大事にされている、守破離(しゅはり)という言葉があります。修行や道を極めるまでの工程を表す言葉です。『守』は決められた動きをする段階で、そこで学んだ基礎に自分なりの要素を加えていくのが『破』、最後には師の元を離れ独創性を追求する『離』へと至るのです」

茶の湯×リトリートの可能性

茶道の師範でありながら、図面が引け、デザインもする天江さんの活動幅は広がっている。依頼を受け茶室を設計することはこれまでも多かったが、2022年秋には天江さんが定期的に外国人ゲスト向けに野点を行うラグジュアリーホテル「アマン京都」で使う野点用の茶道具のプロデュースも行った。天江さんが京都の若手職人とともに仕上げたこれらは、天然素材を生かしたアノニマスなデザインが特徴。洋室やマンションなどの現代の生活空間にもよく馴染む。

陶々舎は2023年には10周年を迎えた。茶の湯の伝え方をいま一度見直すなかで注目しているのが、世界的にも需要が高まりつつあるリトリートという過ごし方。

「これから世界的にもますます茶の湯の精神が求められると思います。対して今の日本で初心者が茶道に触れられる機会は、数時間で簡単なお点前を習うライトな体験か、もしくは毎週のようにお稽古に通う本格的なプログラムの大体どちらかしかありません。そこで僕たちが考えているのは、お点前からお茶の思想、また茶道具のものづくりの背景までを数週間で学べるリトリート型のプログラム。お茶を軸にしたリトリートなので、終了後も参加者はそこで得たものを日常生活で実践できます」



お茶が日常のものである限り、社会に求められる茶の湯の形が変化していくのは当然のことなのだ。“最先端の茶の湯”の在り方を探る彼らの挑戦は、これからもつづく。

文=池尾優

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