カルチャー

2024.07.25 08:15

「茶の湯は日常の儀式」 リモート弟子にOpenAI社員も、無所属茶人 天江大陸の実験

読むふるさとチョイス

(本稿は「読むふるさとチョイス」からの転載である。)


京都市北区、茶の湯を確立した桃山時代の茶聖・千利休に縁のある大徳寺のほど近く。立派な日本家屋を前にやや緊張しながら声をかけると、「あ、こんにちは~」と軽やかな声が返ってきた。出てきたのは、白のTシャツ×ハーフパンツに素足という出で立ちの男性。「陶々舎」(とうとうしゃ)の天江大陸(あまえ だいりく)さんだ。自らを“流派に所属しない茶人”と称し、この家で日常にお茶のある暮らしを実験的に行いながら、現代に合った茶道の在り方を探っている。陶々舎の理念である“茶の湯を解凍する”とはどういうことか? いま世界中で茶道が注目されている理由とは? それらの答えのなかに、最先端のお茶の可能性が見えてきた。

茶の湯を解凍する

和室や着物が減りつつあるなか、茶道をたしなむ人も減っている。ある統計では、2021年の茶道人口は約92万人で、25年間で3分の1ほどになったという。伝統や格式といったイメージが先行し、たとえ興味があってもハードルの高さを感じる人も多い。けれど400年以上つづく茶道の歴史を遡れば、もともとお茶は人びとの日常のなかにあった。千利休の言葉を用いて天江さんは話す。



“茶の湯とはただ湯をわかし茶を立ててのむばかりなることと知るべし(茶の湯というのは、ただお湯を沸かし、お茶をたてて飲むだけだ。それを理解するべき)”

「茶の湯とは、現代風に言えば“お茶する”ことを通して、誰もがその奥深い思想や美学に触れることができるものです。それらはお茶室やお茶会だけで通用する特別なものではなく、むしろ普段の生活全体に関わっています。にもかかわらず、伝統や誤解などのバイアスが作用しているために、茶の本場と言われる京都でもお茶人口は減っています。そのような現在の“冷凍状態”にある茶道を解凍するために、2013年に立ち上げたのが陶々舎です」

陶々舎の初期メンバーは天江さん含む3人の茶人。当時全員が20代というタイミングで、この家での共同生活をベースに活動を展開した。そこから10年間で天江さん以外のメンバーは何度か入れ替わり、それぞれの活動幅も広がっているが、茶の湯を解凍するという理念は変わらない。



メンバーそれぞれが通常のお稽古や依頼を受けての茶事を行うのに加えて、ある時にはカスタムした自転車に茶釜や茶道具を載せ鴨川で道ゆく人に振る舞ったこともある。過去には、参加者全員で銭湯に入った後に温泉饅頭とお茶をいただく「茶と湯」や各自好きな本を持ち寄っての「読書茶会」などの茶会を開いたり、無印良品の店舗では無印良品のアイテムを用いた茶の湯のワークショップを行った。企画はどれもユニークで、茶道経験のない人の参加も多いという。
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文=池尾優

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