「何が何でもやる」という態度を見せる
北野:日銀総裁時代、信念をもって大胆なゼロ金利政策を断行する姿が印象的でした。振り返って、ご自身のキャリアの原点はどこにあるでしょう。黒田:ひとつは大蔵省の若手時代にオックスフォード大の大学院でジョン・ヒックス名誉教授(72年ノーベル経済学賞を受賞)に学んだ経験でしょうか。ある日の金融論ゼミにイングランド銀行の理事がゲストスピーカーで来ました。白熱した議論の後、いつも教授がポイントをうまくまとめるのです。「イングランド銀行が公定歩合を0.25%上げただけで景気の過熱が止まり、インフレ率が低下した。なぜか?」と。答えは「必要ならこの後にいくらでも公定歩合を上げる用意がありますよ、という強い姿勢を示したから」。今から半世紀前に、市場の期待に働きかけるコミットメントの重要性を説いたのです。
自分が日銀総裁になってから、デフレを収めるために「2%の物価安定目標を達成するまでは何でもやるぞ」という姿勢を示せたのは、このときの経験が生きたかもしれません。
北野:総裁は「強い姿勢」を示す発信力が必要なのですね。
黒田:まずは、その時々の経済や金融の状況を正しく把握して分析することが重要です。それを踏まえて、やるべき政策を決断することが必要です。
例えば、2012年の欧州債務危機ではイタリアとスペインの国債が大暴落したわけですが、ECB(欧州中央銀行)のマリオ・ドラギ総裁は「Whatever it takes(何でもやってやるぞ)」という有名なフレーズを発しました。EUの中央銀行がイタリアとスペインの国債を買い支える、と宣言したわけです。
普通に考えたらルール違反と言われそうですが、そんな悠長なことを言っていたらユーロが崩壊してしまう。異常な状態に対しては、異常と言われるような政策で対応するほかない。結局、彼の発言によって危機は収束に向かいました。
北野:まさに、決断力。
黒田:こうした能力はドラギに限らず、FRB(米連邦準備制度理事会)議長だったベン・バーナンキにせよ、ジャネット・イエレンにせよ備わっていました。
北野:お互いのキャラクターまで把握しているのですか?
黒田:中央銀行同士、顔を合わせる機会は多いです。IMF(国際通貨基金)の会議が年2回、BIS(国際決済銀行)の総裁会議が年6回、ほかにG7でもG20でも会議があります。
相手の政策を批判して「こうしてくれ」という下品な話はいっさい言いません。ただ、お互いが抱えている問題を率直に話し合う。コーヒーブレイクでヒソヒソ話すこともあるし、電話してもいい。いろんなかたちで意見交換します。
金融というものは国際的に波及しますから、他の国の中央銀行総裁とフランクに話し合える関係を築くのが大事です。