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2024.06.27 09:00

元日銀総裁・黒田東彦が語ったデフレとの10年戦争。異次元のゼロ金利政策を支えた覚悟とは?──北野唯我「未来の職業道」ファイル【特別編】

2つの武器が「決断」を後押しする

北野:若い世代に向けて黒田さんがよく伝えている話はありますか。

黒田:15年間のデフレ期に大学を卒業した人は、自分の意に沿わないところに就職したり、非正規雇用になったりして、大変な苦労をしたと思います。いわゆる就職氷河期にそういう状況にあった人たちをさかのぼって救済することはできません。

北野:先日の国会でも話題になっていましたね。

黒田:異常なデフレは単なる経済問題ではなく、根深い社会問題を引き起こします。当時の政策が不十分だったのかもしれないけれど、最大の原因はやはり80年代後半のバブル経済とその崩壊です。
 
ただ、現在の日本経済は米国経済と同じぐらい順調だから、あまり未来を悲観することはないと言いたいです。設備投資もきわめて順調で、労働生産性が上がっていくでしょう。これまで0.7%ほどと言っていた潜在成長率は1%くらいで続くかもしれない。日本企業の技術開発力やサービス、新商品の開発力も衰えていません。

北野:黒田さん的には、日本の未来は明るい。

黒田:その通りです。1つだけ問題を挙げるなら「教育」です。先月までコロンビア大の大学院で教えてきましたが、日本に比べると特に文系のレベルがとても高いと実感しました。OECD(経済協力開発機構)のデータによれば、日本の初等教育や中等教育は、パフォーマンスも予算もトップレベルです。ところが大学レベルになるとOECDの加盟国でもかなり下のほうで、パフォーマンスも低いし、お金も使われていない。日本が米国の大学を卒業した人をどんどん採用できればいいですが、国内のレベルを上げておく必要があります。結局のところ、技術開発力は人に依存しますから。

北野:昨年になって、ようやく国が10兆円規模の大学ファンドを創設しました。

黒田:そういうところにドンとお金を使うのは、とても良いことです。
 
会社でも政府でも、いろんな状況に応じて「何をするか」を決めるときには、経済学あるいは経営学の理論を十分マスターしておいてほしいという希望があります。理論的な流れや運びというものを理解しておくことは、大切な武器になる。
 
ただし、理論とは抽象的であり一般的なものに過ぎないので、その時々に直面している課題について一義的に回答が出せるわけではありません。

例えば、大きな経済政策であれば総理や大臣が決めますが、具体的なアクションにする場合、局長や課長クラスがそこで判断しなければいけない。そのとき、どの範囲だったら実行が可能で、さらに有効な打ち手になるのか。その決断は理論だけからは出てこないので、やはり経験が求められるし、同僚らとの議論を通じて発見していく必要があります。

つまり、理論なしにやるのも危ないし、理論だけで教わった通りにやれるという話でもない。いつの時代にあっても、「理論」と「経験」の両方が要ると伝えています。
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文=神吉弘邦(本文)北野唯我 (コラム)写真=桑嶋 維

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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