サイエンス

2024.06.07 16:00

作曲家ベートーベンの毛髪を分析、鉛中毒の病歴はほぼ確定か

ドイツの作曲家ルートビッヒ・ファン・ベートーベンの胸像(中央、Martin Zwick/REDA&CO/Universal Images Group via Getty Images)

ドイツの作曲家ルートビッヒ・ファン・ベートーベンの胸像(中央、Martin Zwick/REDA&CO/Universal Images Group via Getty Images)

ドイツの作曲家ルートビッヒ・ファン・ベートーベンの遺髪から抽出したデオキシリボ核酸(DNA)から、興味深い内容が明らかになった。ベートーベンは有毒金属である鉛の中毒に苦しんでいたことが知られているが、一部の伝記作家がかつて説いていたように、死に至るほどの高濃度ではなかったようだ。

そう判断したのは、米ハーバード大学医学部の生化学者ネーダー・リファイ博士が率いる実験医学チームだ。今から200年前の1824年5月7日、特に第4楽章の『歓喜の歌』で有名なベートーベンの交響曲第9番がオーストリアの首都ウィーンで初演された。その200周年を前に、今回の研究の成果は5月6日、医学誌『臨床化学』に掲載された。

リファイ博士の研究チームがベートーベンの2束の毛髪の房を毒素分析したところ、片方の房からは通常の64倍、もう片方からは95倍の鉛が検出された。これらの数値から、ベートーベンの血液中には成人の正常値の数十倍もの鉛が含まれていたと推定される。これについて同博士は、測定された濃度では、ベートーベンが鉛中毒で死亡したという考えを裏付けることはできないが、同作曲家が生涯を通じて患っていた病の一因になった可能性はあるとの見方を示した。

ベートーベンの毛髪から検出された鉛の濃度は、一般的に胃腸障害や腎臓病、肝臓病、聴力低下を引き起こす水準だが、同作曲家は実際、これらすべての症状を訴えていた。ベートーベンは短気で不器用だったと言われ、物忘れにも悩んでいたが、こうした性質も高濃度の鉛と関連している。

ピアニストでもあったベートーベンの魅力は絶えることがなく、1827年に56歳で死去した原因を巡っては、現代でもさまざまな憶測が飛び交っており、今回の研究結果は注目に値する。ベートーベンは1802年、「ハイリゲンシュタットの遺書」として知られる弟に宛てた手紙の中で、自身の病気について言及し、死後に公表するよう求めた。手紙が公開されて以降、医学の専門家らは遺伝性の疾患や肝硬変など、同作曲家の死因を巡って数多くの仮説を立ててきた。

今回の研究では、ベートーベンの毛髪から採取されたヒ素と水銀の濃度がこれまで考えられていたより高かったことも示された。これは同作曲家の健康問題と密接に関係しており、病気の原因を探る手掛かりになるだろう。

ベートーベンが鉛中毒に苦しんでいたことを示唆する発見は、今回が初めてではない。2000年に発表された研究では、ベートーベンのものと思われる毛髪から法外な高濃度の鉛が検出され、その毒性が同作曲家の死因となったと推測された。ところが、その毛髪サンプルの分析を進めたところ、アシュケナージ系ユダヤ人の遺伝子を持つ女性、つまり別の人物のものだったことが判明した。

だが、今回の研究は、国際的な研究チームが昨年、全遺伝情報(ゲノム)配列からベートーベンのものであると証明した毛髪を分析したものだ。昨年の研究チームは、8束のベートーベンの毛髪を分析し、同作曲家が肝臓病にかかりやすい体質で、実際にB型肝炎に感染していたことを突き止めた。今回のリファイ博士が率いた研究では、イオンの質量電荷比を測定する質量分析法を用いて毛髪を調べた。
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翻訳・編集=安藤清香

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