サイエンス

2024.06.07 16:00

作曲家ベートーベンの毛髪を分析、鉛中毒の病歴はほぼ確定か

ドイツの作曲家ルートビッヒ・ファン・ベートーベンの胸像(中央、Martin Zwick/REDA&CO/Universal Images Group via Getty Images)

誰がベートーベンの髪を保存していたのか?

晩年にベートーベンの健康状態が悪化すると、友人や崇拝者らが、白髪交じりになった作曲家の髪を形見として切り取ることを要求するのは珍しいことではなかった。現在では、26束もの貴重なベートーベンの毛髪を所蔵する米議会図書館のような公的機関もあれば、個人で所蔵している人もいる。
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中には、入手した人物の名前を冠したものさえある。例えば、今回リファイ博士の研究チームが分析した毛髪の房の1つは「ハルムとセイヤーの房」と呼ばれている。その房はベートーベンが1826年、ピアニストのアントン・ハルムに渡したとされ、後に同作曲家に関する最初の学術的な伝記を執筆したアレクサンダー・ウィーロック・セイヤーの手に渡ったからだ。

オーストラリアの実業家で、米ベートーベン協会の理事でもあるケビン・ブラウンは「ハルムとセイヤーの房」と、今回の研究に使われたもう1つの毛髪の断片である「ベルマンの房」の両方を所有している。

ベートーベンはなぜ高濃度の鉛に侵されていたのか?

ベートーベンが酒好きだったことはよく知られているが、同作曲家が生きていた時代の鉛の毒性に関する研究によると、ベートーベンは安価なワインを鉛で甘くしたり、鉛の入った容器で発酵させたりしたことで、この金属を摂取していたのではないかと考えられる。また、鉛を含む薬を処方されていた可能性もある。

今回の研究には参加していない南オーストラリア大学のイバン・ケンプソン生物物理学准教授は、ベートーベンの毛髪が遺伝学的に確認されたことで、同作曲家の鉛中毒はほぼ確定的なものとなったと評価。他方で、毛髪に含まれる鉛の濃度が血中の濃度と同じかどうかについては定かではないと指摘し、次のように述べた。「鉛の精錬所で働く作業員の毛髪を分析したところ、洗浄では除去できないほどの汚染があり、血中鉛濃度を推定することができないことが分かった。また、鉛の取り込みに大きく影響する個人的な特性もある。例えば髪の色は、血液や外部汚染を通じて毛髪の中に取り込まれる鉛の量に影響する」
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今回の研究チームは、外部からの鉛の混入による誤差の可能性があることも追記しているが、分析は毛髪検査学会が推奨する方法に従ったとしている。ともあれ、ケンプソン准教授も今回の研究チームも、ベートーベンの鉛中毒が証明されたことで、現代人が同作曲家の病歴をより正しく理解できるようになったと評価している。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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