「インドは成長中とはいえ、ほぼ手つかずの市場であり、それこそがインドのもつ大きな強みなのです」(ゴー)
スタティスタによると、インドでは23年、国内線と国際線の旅客数が前年比73%増の推定3億2700万人以上だった。インド経済の成長に伴い、空の旅も拡大が見込まれる今、SIAはその波に乗ろうとしている。しかもシンガポールはすでに、インド人旅行者が国外のさまざまな目的地に向かう際のハブとして利用されている。
そこが、SIAの格安航空会社スクートのねらい目だ。スクートは、飛行時間5時間以内のインド(と東南アジア)各地の小さな空港からシンガポールに旅客を運ぶという重要な役割を果たしている。そうした路線には通路が1本のナローボディ機を使っており、ブラジルの航空機メーカー、エンブラエルに122人乗りのE190-E2を9機発注済みで、納入は今年から始まる予定だ。エンブラエルのこうした小型機は、旅客数がさほど多くない小規模な空港にうってつけなのだ。
クアラルンプールで野村証券のアナリストを務めるアフマド・マグフル・ウスマンはこう述べる。「エア・インディアの運航効率は確実に向上しており、保有機材の拡大でさらに向上が見込めます」
SIAとタタは専門性をもち寄り、エア・インディアの評価をアジア屈指の質の高い航空会社へと高める計画だ。
コードシェアでネットワークを充実
11年からCEOを務めるゴーは、パンデミックの際に、長期的視野を備えたリーダーとしての手腕を証明した。20年1月、中国政府がコロナの感染拡大を阻止するため武漢市を封鎖すると、翌日には危機対策会議を招集し、同社が生き残るには3カ月以内に大量の資本注入が必要だと結論づけた。「破綻のリスクもありました。大変なストレスにさらされた時期でした」(ゴー)
ゴーは、最大株主であるシンガポール国営のテマセク・ホールディングスをはじめとする株主に、新株発行のために新たに150億シンガポールドル(113億ドル)の増資を依頼した。その結果、転換社債の売却益を含め、合計で実に235億シンガポールドルを調達することができた。従業員は可能な限り維持しようとしたものの、結果的にはコロナ前の水準から人員の約20%を削減し、経営陣は最大35%の減給となった。
SIAは調達した資金を使って、コロナ後の未来への備えとして、保有機材の拡大と整備を進めた。パンデミックの間に36機の新機材が納入されて、保有機材は約200機に増加。今後数年間にエアバス、ボーイング、エンブラエルからさらに100機が納入予定となっている。機材の納入でSIAの資本支出は、25年3月までの会計年度に48%増の34億シンガポールドル、26年度にはさらに43億シンガポールドルにふくらむ見通しだ。支出を減らし、使わなくなった機材の保管に集中した競合他社とは対照的だ。
さらに、短距離のアジア・太平洋路線を飛ぶ小型機の客室改修に2億3000万シンガポールドルを投じ、ビジネス・クラスのフルフラット・シートを増やし、現在は全フライトの95%でクラスを問わず無料Wi-Fiを提供している。このほか5000万シンガポールドルをかけて、チャンギ空港第3ターミナルにある同社ラウンジをアップグレードした。