経営・戦略

2024.06.10 13:30

シンガポール航空、急速回復の裏に巨大インド市場への先見性

これらすべては、コロナが収束して航空旅行規制が撤廃されたらすぐに、繰越需要に応え旅客機を満席で飛ばせるようにするためのものであり、当然ながら航空料金の高騰も見込んでいた。SIAの従業員数は現在、ほぼコロナ前の水準に戻っており、さらなる採用を予定している。 SIAトレーニング・センターを取材すると、エアバスやボーイングのシミュレーターでパイロットが訓練に励み、客室モックアップでは客室乗務員が評判の機内サービスの訓練を受けるなど、活気にあふれていた。

「昨年は3000人の客室乗務員を採用しました。来年度はさらに3000人を採用する予定になっています」(ゴー)
 
23年12月の時点で、SIAと格安航空会社のスクートは国外で121都市に就航しており、コロナ前の約90%の水準まで戻っている。SIAとスクートの24年度(3月期)の最初の9カ月間の旅客数は約2700万人で、前年度を43%上回った。国際航空運送協会(IATA)によると、同期間にSIAの有償搭乗率は、アジア・太平洋地域の航空会社の平均である81%を上回る89%となった。コロナで航空各社が減便を余儀なくされた際も最低限の乗務員数を維持したことで、すぐに運航を再開できたためだ。
 
コロナ禍の3年間に総額55億シンガポールドルの損失を被ったSIAだが、23年度(3月期)の純利益は過去最高の22億シンガポールドルにまで回復した。24年度の最初の9カ月間には、税引き前利益は過去最高の21億シンガポールドルを記録し、ブルームバーグがまとめた試算によると、通年では26億シンガポールドルを上回るはずだ。パンデミックの間に発行された転換社債は大半が償還されており、SIAの株価もパンデミック時の低迷から倍増し、テマセクをはじめとする株主を潤わせている。

「空の旅への需要は依然として堅調です」とSIAは2月20日の決算発表で述べた。大半の市場での輸送力増大や春休みからイースターにかけての旅行需要に支えられ、今後も引き続き売り上げは伸びると、同社は予想している。ただし、競合他社からのプレッシャーと燃料費高騰により見通しに陰りが生じる可能性もあるとも指摘している。
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文=ジョナサン・バーゴス 翻訳=フォーブス ジャパン編集部 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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