英安全衛生庁(HSE)の統計によると、全職種での職業性喘息の新規症例は2007〜16年に年間10万人当たり平均0.4人だったのに対し、製パン業では37人だった。
英国のある焼き菓子メーカーは2018年、長期にわたり絶えず健康リスクにさらされた従業員の多くが職業性喘息と診断されたことを受け、16万ポンド(約3200万円)超の罰金を科された。HSEの調査で、粉じんが空気中に舞い上がり、従業員が呼吸器系のリスクにさらされるのを防ぐ効果的な対策を取っていないことが明らかになった。衛生検査官は裁判で、一定以上の規模の製造環境で小麦粉の粉じんにさらされることが健康面に及ぼす深刻な悪影響に言及した。
カナダのアルバータ大学で職業疫学を研究するニコラ・チェリーが行った研究によると、小麦粉には酵素の一種であるα-アミラーゼが含まれていることが多い。プロの厨房では、イーストの働きを良くするために小麦粉を使ったレシピにα-アミラーゼを添加するが、これがアレルゲンとなることもある。この粒子は、吸い込むと肺組織に留まり、この状態が長期間続くと慢性的な炎症になる。
「パン職人がα-アミラーゼに20年ほどさらされるとアレルギー症状が出ることが判明している」とチェリーは説明する。「さらされる期間が長いほど、影響を受ける可能性が高くなることがわかった」という。
このような職業上の危険を軽減するため、小麦粉の粉じんを対象とした職業ばく露限界値を設定している国もある。粉じんが少ない小麦粉に置き換えたり、マスクを着用したり、高性能の換気・空気濾過システムを導入したりすることでも曝露を最小限に抑えられる。デビッドソンは「高性能フィルターを使用した空気清浄機を補助的に設置すること」を推奨し、「大規模な用途では、カートリッジ式のフィルターを備えた大型の集塵機がより適切かもしれない」と話す。
一見無害なパン製造という職場には、労働者が直面する深刻な健康リスクが潜んでいる。喘息は重大な脅威だ。製パン業界の労働者の健康を守るためには、雇用主から政策立案者まで、関係者がこうしたリスクを認識して対処することが重要となる。毎日パンを作ってくれる人々を守るため、隠れた危険性を明らかにしなければならない。
(forbes.com 原文)