監督のジョナサン・グレイザーは、この家族の日常を確信犯的に固定されたカメラアングルで映していく。それも一幅の絵画のように、遠くから対象との距離を保ったまま描いている。この撮影手法が、作品の内容とも相まって、観る者の心のなかにじわじわと「恐怖」を蓄積していく。
他にも「恐怖」を想起させる仕掛けは、作品中のそこかしこに用意されている。邸宅の向こう側で起きていることに対しての知識や認識が深ければ深いほど、またそれらのディテールに対しての反応が鋭敏であればあるほど、「関心領域」という作品はさらに強烈なメッセージを発するものとなってくる。
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作品を発表するまでに10年の時が
「関心領域」は、カンヌ国際映画祭のクランプリに次いで、今年度のアカデミー賞でも主要賞である作品賞や監督賞のほか5部門にノミネートされ、国際映画賞と音響賞の受賞に輝いた。監督賞にノミネートされたジョナサン・グレイザーは、1965年英ロンドン生まれ。キャリアの初期にはレディオヘッドやジャミロクワイのミュージックビデオを手掛け、1997年にMTVのディレクター・オブ・ザ・イヤーを受賞している。日本でもカップ麺や自動車のCMで使用されたジャミロクワイの「ヴァーチャル・インサニティ(Virtual Insanity)」のミュージックビデオ、動く床の上で踊りながら歌う驚異の映像は強く印象に残っている人も多いのではないだろうか。
グレイザー監督は2000年に「セクシー・ビースト」で映画監督としても長編デビューを果たし、前作「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」(2013年)では主演にスカーレット・ヨハンソンを起用して異色のSFサスペンス映画を発表した。最新作でもある「関心領域」は、グレイザー監督にとっては久しぶりの長編映画であり、脚本も執筆している。
「私はそれほど多くの作品を監督しているわけではありません。何かをつくるときは、完成するまでそのプロジェクトに打ち込むという傾向があります。掛け持ちをするようなことは絶対にありません。最後の映画(「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」)を完成させたとき、本作のテーマが持ち上がりました」
「関心領域」を撮るきっかけをこう語るグレイザー監督だが、実にこの作品を発表するまで、10年の時を要したことになる。