「脚本を書き始める前に、2年間調査しました。映画のスタッフにはアウシュビッツ=ビルケナウ博物館の研究者にも参加してもらいました。彼らの仕事は、被害者や生存者の何千、何万もの証言である『黒い帳簿(black books)』をすべて調べることでした」
そうしてグレイザー監督は入念に準備して、ルドルフ・ヘスや彼の妻に関係のある資料や証言を手に入れたという。そのなかにルドルフの転勤について妻のヘートヴィヒが不平を漏らして激怒したという証言があり、これをグレイザー監督は、脚本執筆にあたって物語の核に据える。
「この人事異動のとき、彼女は丹精込めてつくり上げたものすべてのものを失うという脅威にさらされます。われわれがつくった映画は、男とその妻を描いたファミリードラマです」
しかし実際には、家族が暮らす家の隣接する場所にはホロコーストが行われていた強制収容所がある。このシチュエーションこそが、グレイザー監督の言う「ファミリードラマ」が、一転して「人々の無関心」という強烈なメッセージを発信する作品になるというコペルニクス的転回を成立させている。
映画「関心領域」は5月24日(金)より新宿ピカデリー、TOHO シネマズ シャンテほか全国公開(c)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved
「関心領域」は、観る側の関心度や理解度によって、受け取り方にかなりの差異が生じる作品かもしれない。そして作品から感じる「恐怖」の度合いも各々異なるものとなるかもしれないが、さまざまな紛争が依然として絶えない、いまの現実世界にも通ずるシリアスな問題提起がされていることも確かだ。
連載 : シネマ未来鏡
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