こう語るのは、同社の赤澤岳人社長だ。社長自身は壁画を描かず、プロデューサーという立場で制作を統括する。2016年の創業以来、画家で副社長の山本勇気氏と二人三脚で同社を率いてきた。
同社は経営者をはじめ、企業のキーパーソンに徹底したインタビューを行ったうえで、アートに落とし込んでいく。このインタビューはすべて社長自身が行っているという。
経営者や企業の将来を担うエース級の社員を中心に8人程度のグループで2時間程度行うインタビューは、複数回に及ぶことも珍しくない。このインタビューの場で赤澤社長は、「自社の好きなこと」など様々な質問を繰り出す。また、必ずひとりずつパーパスを音読してもらうという。
「音読してもらうと、社の中心にいる従業員でも漢字を読めないこともあって驚きます。最も興味深いのは参加者ごとに『どこを強調して読むのか』が異なるということです。パーパスの言葉で誰が何を大切に思っているのかを感じとることができます。そのためには表情も見ますし、全身で聞き取るようにしています」
企業のパーパスを表現した壁画は、「会社で最も目立つ場所」に大きく描かれる。それゆえ従業員は出勤するたびにパーパスを目にすることになるため、否が応でもパーパスは社内外に浸透していく
こうしたインタビューで赤澤社長自身が感じた「その会社の魅力的な要素」を壁画として表現する。副社長で画家の山本氏と議論を重ねながら図案を決めていくそうだ。絵でパーパスを表現することには、言葉にはない大きなメリットがあるという。
「言葉でパーパスを定める際は、どうしても”すべて”を盛り込もうとします。社会、顧客や従業員、あるいは自社の製品・サービスのすべてを包括するように言葉が足されていくのです。その結果、八方美人で印象に残らないものとなってしまいます。ですが、絵にはすべてを盛り込めないので『本当に大切にしたいもの』が明確になっていくのです」
最終的に、赤澤社長はクライアントに図案を3〜5個ほどを提示する。その際、決して「プレゼンテーション」はしない。
「案を初めて見てもらう場は、舞台であると考えています。何をどういう順番で見せれば感動してもらえるのかを意識しています。そして案の提示は『インタビューの終わり』ではなく、『新たな始まり』となることもあります」
ある教科書会社からの依頼で壁画を作成したときのこと。学校の教室の様子を描いた案を示したところ、「違和感がある」との声があがったという。だが、その違和感の正体を当の発言者も明確に理解できていなかった。問いかけを続けるうちに、教室に描かれた「壁」が違和感の正体であることが浮き彫りとなった。「教育とは壁によって閉ざされたものではなく、もっと広く解放的であるべき」という想いが違和感を抱かせていたのだった。