以前のコラムで述べた通り、「日本を代表する人の、特に英語圏を対象としたメッセージ発信」という意味で、素晴らしい演説で贔屓目なしに賞賛に値する。
今回は、この演説を別の角度から分析する。ちょっとしたクセやジェスチャー・ポスチャー、見た目など、細かいけれど改善すればワンランクアップする、「差がつく」ポイントを解説しよう。ビジネスシーンでも活用できるので、ぜひ参考にしていただきたい。
1.指先モジモジ
演説中、総理の指先が細かく忙しく常に動いていた。 特に見受けられたのが、親指と人差し指の腹と腹を擦り合わせるような動きだ。その様子から、相当な緊張が見て取れた。岸田総理はこの演説を練習する際、スピーチライターによる録音を繰り返し聞いていて練習したそうだ。また、演説中の体の動きを見て、身振り手振りについても少なからず誰かからのアドバイスは受けたのではないかと考える。しかし、もし筆者の読みがあっていたとしたら、この「指先モジモジ」に関しては見逃されてしまっていたか、練習中にはそれが起こらず指摘をされずに本番を迎えてしまったと思われる。
指の腹同士を擦り合わせるのは、自分で自分の体を触り落ち着かせようとする行動だ。「なだめ行動」とも呼ばれ、緊張や不安の表れとされる。手は私たちの感情を表す”第二の口”とも言われ、指先の動きからは言葉以上の意味が語られる。そして、それを見る側は相手の感情を読み取れることさえあるのだ。
演説中、親指と人差し指の腹と腹を擦り合わせる岸田総理 / Getty Images
この無意識のクセを改善するにはどうすれば良いのか。まず重要なのは、緊張や不安を和らげるための心理的な対処法を身につけることだ。自分に適した呼吸法やリラックス法を実践し、「これをすれば大丈夫」と思えるルーティンを行う。不安要素を可能な限り排除し、自信を高めて演説に臨めるように自身を整えることが大切だ。
次に、 専門家からの具体的な指摘と指導を受けること。今回のような指先の動きは無意識のうちに起こるものだが(本人が動かしている意識は一切ない)、動いている事実を自覚することで、意識的にコントロールする練習ができるようになる。自身の演説やプレゼンテーションの映像を見て、客観的かつ視覚的にチェックすることも有効だ。
そのうえで、こうしたクセを指摘・指導してくれる伴走者を近くに置くこと。習慣に近く一度指摘されても簡単に直るものではないため、常に注意を払い、ポジティブな意識を持って指摘してくれる人が必要だ。
「指先モジモジ」が解決され指先の動きが落ち着いていると、余裕があるプレゼンスが確立されて聴衆に自信のある印象を与えることができるようになる。なお、指の腹を擦り合わせる仕草は、落ち着きがないように見えるだけでなく、非常に不潔な表現で恐縮だが「鼻クソを丸めている」ようなイメージを連想させる。従って、早急に改善策を取ることを強くお勧めする。