永田:そうですよね。実は事前に展覧会情報を見ていたとき、その言葉にすごく感動しました。
片岡:シアスターからも、今回の展示に際して、「展示を観にくる方々には、作品を見て、かっこよくて、きれいで、美しいねというふうに思ってもらえたら、僕はそれで良い」と言われました。
アフリカン・アメリカンの歴史など、作品の背景が分かってようやく「なるほど」という納得感に繋がるところもあり、美術館としてはそこを伝える責任とのバランスが難しいところではあるのですが、あまり会場を説明でいっぱいにしないようにして、感覚的に、誠実に美しいと感じられる体験をしてもらえるような展示を心がけました。
永田:僕にはアートと経営が接続した経験があります。それは、新しいオフィスを作るときに、来訪者に伝えたいことがたくさんあり、壁一面にあれこれ説明を飾ろうとしたのですが、そんなの誰も読まないよね……と。それを説明やデータを超えて、我々を何かを伝える、それは非言語的なものでしかできないと考え、デザイナーではなくアーティストとワークをしたことです。
片岡:科学者や数学者に、私は実は憧れているんです。難しい理論に到達する、あるいは解明する瞬間って、ものすごくクリエイティブじゃないですか。人と逆行することで初めて突破口が開けるとか、失敗の中に実は答えがあったとか。つまりひたすら直線的に掘り下げているだけでは駄目で、多様な思考性を持ちながら反復横跳びのようなことをしていかないと、求めるところとは出会わない。そういう瞬間を想像するのが、すごく面白いですね。
永田:そうですね。過去の何千年の積み重ねの上に立てるというのも、サイエンスの面白さのひとつです。探究心と好奇心を原動力に、人類としての“最初の発見”を目指して、歴史を反復横跳する感じでしょうか。
サイエンスにとって、「それ、やっていてなんの意味があるの?」という問いって、例えば、虹を見てきれいだと思うことになんの意味があるのか? という問いと同じぐらい意味をなさないと思っていて。だから僕は、サイエンティストに、人類が持っている生物的要件とは別のとこにある「人間らしさ」を見ているんです。
片岡真実◎ニッセイ基礎研究所都市開発部、東京オペラシティアートギャラリー・チーフキュレーターを経て、2003年より森美術館、2020年より現職。2023年4月より国立アートリサーチセンター長を兼務。ヘイワード・ギャラリー(ロンドン)インターナショナル・キュレーター(2007~2009年)、第21回シドニー・ビエンナーレ芸術監督(2018年)、国際芸術祭「あいち2022」芸術監督。CIMAM(国際美術館会議)では2014~2022年に理事(2020~2022年に会長)を歴任。
永田暁彦◎リアルテックファンド代表。独立系プライベート・エクイティファンドに入社後、2008年に創業3年目のユーグレナ社に取締役として参画。2012年にIPOを実現後、経営戦略に加え、ヘルスケア、エネルギー等の各事業責任者を歴任。2021年にCEOに就任、24年3月に退任。現在は、2015年に設立した日本最大規模のディープテック特化型ファンド「リアルテックファンド」の代表を務める。