アート

2024.05.23 09:15

投資家と美術館館長が共感する「非言語的な美しさ」とは

永田:当時、ビッグサイトでやっていたアートイベントにふらっと行ってみたんです。とても素敵な作品を描いているのに、全然売れてない人がいて。そこで僕は、「あなたを肯定しています」と伝えたくなり、初めて作品を購入しました。
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その頃から変わらず、僕は「買うこと」を「承認すること」と定義しています。作品を購入するのは、その作家さんを承認したい、「I love you」と伝えたいから。有名無名関係なく、好きだなと思う作家さんには、今も手紙を書いて気持ちを伝えています。

10代の頃に買った3000円の作品も、初任給で買った作品も、今になって手が出せるようになった高額な作品もすべて、僕にとってはすべて大切な作品です。正直、好きなだけで、アートへの造詣は深くはありません。主観的・直感的に良いと感じた作品を肯定することが、購入するという行為になっています。華道家の家系にあり、「きれいなものを見たら、きれいと言いなさい」と言っていた母の影響も大きいかもしれません。

片岡:他者の価値観に影響されることなく、名のあるなしに関わらず、良いものを良いと主観で言えるのは、かなり高度なことだと思います。そして、そういう風に楽しみ方を自分で分かっているということがとても大事ですよね。

現代アートはいま「全貌がつかめない」状態

片岡:森美術館では、年間2〜3本の展覧会でどの現代アート作家を紹介するのかを検討していくわけですが、昨今は、主観と同時に一定の客観性を持って判断していくことも、極めて難しくなっています。というのも、現代アートはいまや、専門家と呼ばれる人ですら、世界で何が起きているのか、その全貌を理解するのはほぼ不可能な状況になっているからです。

長いことトップランナーとして君臨していた欧米の白人男性たち「マジョリティ」に対し、それ以外の、女性やカラードなど「マイノリティ」とされていた人たちが、急速に国際舞台に出始めている影響が大きいですね。
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例えば、現在開催中の「第60回ヴェネチア・ビエンナーレ」でキュレーターを務めるアドリアーノ・ペドロサは先住民やカラードのアーティストにフォーカスしていますし、「第24回シドニー・ビエンナーレ」(3月9日〜6月10日)でも、同じく先住民やLGBTQのアーティストが紹介されていました。

そこに、ここ10年くらいで一斉にスポットライトが当たり始めて、すべてを追うことができなくなっています。そのなかで、美術館としては、何らかの動向やトップアーティストを見せていく必要がある。大変ではありますが、こうした多様化の動きは歓迎すべきことで、しばらくは続くのではないかと思っています。
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文=菊地七海 写真=山田大輔 編集=鈴木奈央

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