川崎:「最適化アルゴリズムはアナロジー(類推)を考えません。意味や理由ではなく、この線を引くとゴミが減るという機能を重視して作業します。ですが、人間は意味を見出します。今回も我々のアルゴリズムが提案をした線を見て、宮前さんが「包丁カット」を着想し、その結果が、乱切り、短冊切り、賽の目斬りなど包丁さばきを研究したプロンプトが出来てきました。また、そこから先に生み出された形状が地層や石盤に似ていたのでジャケットの名前も「ストラタ(地層)」「モノリス(石盤)」とつながります。数学的に導き出されたものから身体的にアイデアを探していくという機械と人間の対話にクリエイティビティを感じました。」
佐野:「コンピュータを用いたデザインのプロセスでも、CAD上で『生成』『増殖』『淘汰』をするのですが、今回A-POC ABLEチームが物理サンプルでも淘汰(サンプル品を作ってみて、そこから実際に製品になるものを選択していく行為)をしていくのが興味深かったです。
また、アルゴリズムを用いたデザインにおいて、『重みづけ』という概念があります。生成・淘汰する際の判断基準をつけていくものですが、A-POC ABLEチームとの服作りのプロセスでは、廃棄減少のために最適化していくという方向と、物理サンプルの評価を経て「新しい重みづけ」が生まれていく方向がありました。そのことにより、ミュータント(突然変異遺伝子)のような、最適化だけでは出なかったような面白いパターンが生まれていったと思います。人間の解釈を淘汰のシステムに注入していくのもアルゴリズムの進化にとって必要であることを体感できました。」
これらの話はAIのアルゴリズム制作のプロセスに人間のアナロジーやメタファーを入れることによりユニークなプロダクトが生み出せる可能性を大きく提示している。川崎氏は「システムと美しさ」は別の話ではないとも語る。エンジニアリングでシステムを改善して、アーティスト視点で美しさを担保する「エンジニアとアーティストの行き来ができるものづくりの仕組み」の可能性を感じているという。
AIアルゴリズムを新しいメンバーとして受け入れたA-POC ABLE ISSEY MIYAKE 宮前氏は今後の展望をどのように見ているのだろうか?