これは生成アルゴリズムとともに作ったジャケットのパーツがあらかじめ織り込まれた「一枚の布」の写真だ。この写真を見てもらうと設計図のような清々しさを感じる。無駄を出さないSynfluxの特徴が出ているようにパーツの境界線は密接している。しかも設計図の指示記号も一枚の布の中に記載されている。ジャケット完成後には表に出てこない、製造工程のチームメンバーだけが共有できる指示記号にもデザインが行き届いていてこの服づくりに必要なあらゆる情報が織り込まれた布を見るだけでワクワクしてくる。
そして、ジャケットを作る上で必要な情報が全てインストールされている様は私にプラモデルを思い出させる。ただ、このような清々しい無駄のない「一枚の布」を生み出すためには様々な紆余曲折があったという。Synfluxが企画を提案してから、最終のプロダクトになるまで何度も企画、サンプル作り、を繰り返したという。イノベーションプロジェクトでいうところのPoC(プルーフ・オブ・コンセプト)を何度もアジャイルに生み出していっているということだろう。
宮前:「AIを使うと布裁断時の無駄を省き環境配慮型になるというのは、大前提として、そこにどのように我々ならではのクリエイティビティを付与していけるのか?を考えながら進めました。Synfluxさんの『Algorithmic Couture(アルゴリズミック・クチュール)』がどのような提案をしてくるのか?毎回楽しみでした。
さて、最初の提案をいただいた後に、私からSynfluxさんに、1975年発表のイッセイ ミヤケ「包丁カット」を参考にしてはどうか?と提案差し上げました。「包丁カット」は板前が素材の良さを活かし、余計なことをせずに料理を仕上げるように、シンプルに一枚の生地をカットします。そして、誰もが自由に組み合わせて着ることができるアイテム構成になっています。人間の体は一人ひとり異なるので、布と身体に程良い間があって、体が動かせるようにすることを計算して、できる限りシンプルなカットを目指しています。この「包丁カット」のような考え方が後にPLEATS PLEASE ISSEY MIYAKEにつながります。
ものづくりをしていると、何かを足したくなるのですが、それは作り手の想いだけであって、着る人の気持ちになるとどうなるのか?というのを立ち戻る場所としての、一枚の布、それを思い出すために1975年発表の「包丁カット」シリーズは常に教本として存在し続けています。
今回、Synfluxさんのアルゴリズムを仲間にするときに「包丁カット」をお題にすると良いと思いました。なので、千切り、乱切り、賽の目切りなど日本料理の包丁テクニックを参考にAIにインプットしてほしいという依頼をしました。
また「ジャケット」という形のフォーマットもルールとして決めました。なんでもデザインとしてありにしてしまうと、比較対象がなくなるので作り上げたものの検証ができないので、ジャケットをお題として作り上げてもらうことを依頼しました。」