佐野:「宮前さんから『包丁カット』 というヒントをいただいて最初に行ったことは、包丁を販売する会社のサイトを見に行き、和食を調理する際に用いられる包丁さばきにはどのようなテクニックがあるのか?を調べることでした。それをコンピュータが理解できるようにアルゴリズムをチューニングしていきました。」
宮前:「Synfluxさんのアルゴリズムが提出してくれるパターンを拝見するのは面白かったです。私たちのチームも長年服作りをしているのでお手並み拝見、という心意気で臨ませていただいていたのですが、ファッション業界に長く身を置く我々では絶対にやらないだろうと思うところに線を引いていたりするので『それはだめだよー』と子供に伝えるような感覚で最初のうちはパターンを拝見させていただいておりました。もちろんイッセイ ミヤケの過去のアセットをディープラーニングしたものではなかったので想定外が出るのは当たり前なんですけどね。
チームでものづくりをする醍醐味は、想定外のアイディアがチームメンバーから出てくること。そういう意味ではSynfluxさんの『Algorithmic Couture(アルゴリズミック・クチュール)』はチームメンバーとして最高の役割を果たしてくれました。
そして、我々では生み出さないパターンをもとに、サンプル品も作って見ました。2次元イメージとしては成立していても、縫い上げてみると、ほつれが生まれやすい構造になっていたり、縫いづらかったりするのを実際に試して見ました。
このサンプル品を実際に作ってみる、必ず手を動かす、というのは三宅一生の教えにもつながります。企画の段階で取捨選択して終わらせるのではなく、実際に手を動かすのが大事なのです。自分たちの手を動かすことでいろんな気づきがあります。」
サンプル品も私にとっては宝の山だった。見慣れない斜めのラインが入っていたり、袖の切り替えが複雑だったりユニークなジャケットが多くそこにはあった。ただ、イッセイ ミヤケが扱うものはオートクチュールの一点ものではなく、グローバル市場を目指すものである。A-POC ABLE ISSEY MIYAKEの視点で見ると製品化になりうるものとそうではないものがサンプル品を作ることにより明らかになるという。
しかもイッセイ ミヤケの服はジャケットだろうがドレスだろうがどれだけ出張時のパンパンに詰まったトランクに入れても形状記憶をし、洗濯できるというのも愛用者としてはありがたいのだが、その機能面もこのような丁寧な検証をもとにできていることに感動を覚えた(見た目が良くて購入しても、洗濯するたびにほつれが出てきて結果として着なくなる服を今まで何度も体験しているから感動もひとしおである)。チームのクリエイティビティーを触発したサンプル品を目にしながら話を聞けるのもありがたい体験だった。