宇宙

2024.04.29 19:00

トヨタの与圧式月面ローバー「ルナクルーザー」を2032年に打ち上げ、日本人も月へ

(c)NASA

また、機材の開発費用がいかに膨らんでも、NASAが事業者に支払うギャラは変わらない。これは固定価格制と呼ばれている。宇宙事業を民間に開放したNASAは、これら一連の契約制度を導入することによって、国家予算を大幅に圧縮しようとしている。

トヨタ「ルナクルーザー」の月面運用を米国が約束

2024年4月10日(日本時間)、NASA長官ビル・ネルソン氏と文部科学大臣盛山正仁氏との間で、「与圧ローバによる月面探査に関する実施取決め(略称)」が署名された。
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これによってトヨタとJAXA(宇宙航空研究開発機構)が開発する「ルナクルーザー」が月の南極に送り込まれることが確実視されている(同取決めに車両名は不記載)。現在、NASAが公表するスケジュールでは、2032年のアルテミスVIIで使用される予定。与圧ローバーが他天体の地表を走行するのは史上初となる。

今回交わされた取決めでは、日本は有人与圧ローバーを「提供」するとある。つまり、その運用に関して米国から協力金などが支払われることはなく、月面への車両輸送も日本が担う。

しかし、その貢献に対する対価として、日本人宇宙飛行士2名の月面活動機会が約束(規定)された。つまり、ルナクルーザー初号機には日本人宇宙飛行士が搭乗する可能性が高い。これらの構想がすべて順調に進めば、日本人は米国に継いで、世界で2番目に月面に降り立つことになる。
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ルナクルーザーは完全密閉型の与圧式ローバーであり、2名のクルーは車内でヘルメットと宇宙服を脱ぐことができる。居住スペースは四畳半ほどあり、最長42日間を車中で過ごすことができる。

トヨタ社の与圧式有人探査ローバー「ルナクルーザー」のイメーズ図(c)TOYOTA

トヨタ社の与圧式有人探査ローバー「ルナクルーザー」のイメーズ図(c)TOYOTA

同車両は燃料電池と太陽光パネルを搭載し、モーターを駆動して走行する。つまり、トヨタのFCEV(燃料電池車)技術がこの車両にも活かされている。燃料電池は交換式のボンベに充填された水素と酸素を化学反応させることによって発電する。開発時点においては1回の充電で1000kmを走破し、42日間でトータル1万km移動するスペックを目指している。

アルテミス計画で月の南極を目指しているのは、そこには「水の氷」があるからだ。水を電気分解すれば酸素と水素が得られる。水と酸素はクルーの糧となり、月面への長期滞在を可能にする。また同時に、水素と酸素はロケットやルナクルーザーの燃料・酸化剤にもなる。

水の氷さえ月面で採取できれば必要物資を月面で調達でき、月開拓のコストを大幅に下げることができる。月面のインフラが整えば、月資源を活用する可能性も高まるだろう。人類が初めて臨むその目的を果たすために、これら探査ローバーは投入され、その大役を担うことになる。

編集=安井克至

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