最大7130億円のプロジェクト
各事業者がどのような月面ローバーを開発するかは未定だが、NASAからいくつかの要件が提示されている。・2名乗りの非加圧式の探査ローバー
・各種科学機器を搭載し、月面サンプルの採取に活用。
・ロボットアームを搭載
・通信およびナビゲーション・システムを搭載し、自動運転走行が可能
・クルーが不在の期間は遠隔操作によって探査ミッションを実施
・月南極の極端な環境条件に対応し、月面での耐用年数は10年間を予定
・月面への車両輸送も事業者が担う
・2030年に打ち上げが予定されているアルテミスVから使用
この月面ローバーはクルーよりも先に月面に送られ、遠隔操作によって現地調査を開始、またはバッテリーを充電する。クルーが月面に到着すれば着陸地点まで自走して出迎え、自動運転または手動によって徒歩では到達できない遠隔地まで送り届ける。
かつてのアポロやスペースシャトルなどの時代には、宇宙機の開発・設計はNASA自体が行い、または下請け事業者と共同開発して、その製造を民間企業へ委託した。完成した特注品は基本的にNASAへ引き渡された。
しかし昨今では、NASAから要件が提示され、それに対して民間企業側が機材コンセプトを考案し、見積額とともにNASAに提案する。機材の完成後は、その運用までを民間企業が自社事業として担う。NASAは事業者に対して開発協力費とサービス使用料を支払うことで、民間事業者の宇宙機材ビジネスを成立させる。
そのため、今回選定された3事業者は、まずは1年間をかけてローバーの予備設計を行う。その提案をNASAが厳密にチェックし、最終的には1社だけが選定される。不採用となった2社には基礎契約における予備設計料しか支払われない。完了した工程(マイルストーン)に対してのみギャラが支払われるこの契約方式をマイルストーン制という。
当プロジェクトに対するNASAの総予算は最大46億ドル(7130億円/155円換算)になると公表されているが、最終選定された1社に何台のローバーが発注されるかは現時点では未定であり、実際に開発・製造が進む段階で、改めて数量・納期が個別発注される。これをタスクオーダー契約という。昨今のNASAでは、ほぼすべての宇宙機開発において同様な契約形態が採られている。