これはロシア軍の第30独立自動車化狙撃旅団にとって、アウジーウカから北西へ延びる線路沿いに前進し、狭い突出部を掌握する好機だった。地図上で見ると、長さ8kmほどのこの突出部は、ウクライナ側の防御線に突き刺さったナイフのような形になっている。鋭い先端はオチェレティネに半分ほど食い込んでいる。
ロシア側の突破を許せば、アウジーウカ西方のウクライナ側の防御線は総崩れになり、この方面に配置されている部隊数万人が退却を強いられるおそれがあった。その場合、ドネツク州の住民数十万人も避難を余儀なくされていたかもしれない。比較のために言えば、ロシア軍は2022年秋、ハルキウ方面でウクライナ側に防御線を突破され、大潰走する結果になっている。
結局、ロシア軍はこの週末、ウクライナ側の後方深くまでは進撃しなかった。理由はただひとつ、後退していた第47旅団が途中で引き返し、戦闘に復帰したからである。「第47機械化旅団は仕事に戻った」とメリニクはソーシャルメディアで報告している。
その後の数日間、ロシア軍は突出部をやや広げたものの、それ以上は西に前進していない。ウクライナ側の大惨事は、ひとまずは回避された格好だ。
とはいえ、戦いが終わったわけではない。ロシア軍は予備部隊を突出部に投入できれば、さらに前進できるかもしれない。この点で、近くにロシア軍の第90親衛戦車師団が待機していて、まだ戦闘に参加していないのは注目に値する。
第90師団が西へ移動し、突出部を強固にできれば、少なくともウクライナ側の反撃を複雑にすることはできるだろう。ウクライナ側にとって最悪のシナリオは、疲弊した第47旅団がこの師団によって西へ押しやられることだ。