米国で女性医師に治療された患者は、男性医師に治療された患者よりも死亡率、再入院率ともに低かったことが、Annals of Internal Medicine誌に掲載された査読付き論文で報告された。
東京大学とカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームは、2016~2019年に入院治療を受けた65歳以上のメディケア(米国高齢者向け医療保険)加入患者70万人以上の医療記録を分析し、男性医師と女性医師の治療を受けた患者の違いを評価した。
女性患者約46万人および男性患者約32万人のうち、3分の1弱が女性医師の治療を受けた。入院日数、治療費、退院の可能性、集中治療下にあった時間の割合など病院の治療を評価する主要な数値に関して、グループ間に有意な差異は見られなかった。
しかし女性医師に治療された患者は、男性女性ともに死亡率も再入院率も低かった。特に女性患者の場合、大きく臨床的に有意な差が見られた。女性患者は男性と比べて医学研究で取り上げられることが少なく、誤診や医療過誤の被害に遭う率が男性患者よりはるかに高いという。
女性医師に治療された女性患者に明確な違いが見られたことについてチームは複数の理由を挙げている。たとえば男性医師は女性患者の病気の重症度を過小評価する傾向があること、女性医師はコミュニケーション能力に優れ、女性患者に対してより患者中心のアプローチをとっていることなどだ。
女性医師による治療には、女性患者が繊細な診察を受ける際に起きうる困惑、不快感、社会的文化的タブーなどを軽減する効果もある。
女性医師の治療を受けた患者が、男性医師に治療された患者よりも経過が良好であるという発見は、世界中の研究者によって繰り返し証明されている。
たとえば、スウェーデンとカナダの研究者が昨年発表した研究論文は、女性外科医の手術を受けた患者は、男性外科医が手術した場合と比べて結果が良好で、回復期の問題が少なかったことをそれぞれ報告している。米国では、心臓発作を起こした女性は、女性医師に治療された時の方が生存する可能性が高いことを研究が示している。高齢者向け病院でも同様の結果だった。
これらの研究は一般に観察的であるため、原因と結果を確定することはできないが、女性医師の方が患者の声をよく聞き、患者との時間を多く過ごし、専門家のガイドラインを守って協力する傾向が強いことを研究は示している。
患者にとって女性患者の治療が良い結果を生む一方で、女性医師はこの分野に参入し、仕事を続ける能力を邪魔するさまざまな問題に直面している。女性医師は、同等の男性医師よりも概して報酬が低く、組織的な差別を受け、多くの責任を果たすために熾烈なスケジュールをこなすことで燃え尽き症候群を起こす傾向が高いことにも悩まされている。
医療と研究の分野における女性に対する組織的偏見への対策が何十年も前から叫ばれているいるにも関わらず、いまだに医療研究では、そうと知りながら一貫して女性を軽視しており、臨床試験に女性が取り上げられる機会は少ない。こうした偏見は医学研究全体に浸透しており、実験室レベルにおいてさえ、マウスやラットなどの被験動物は圧倒的にオスが多い。
(forbes.com 原文)