英国陸軍のヒゲ禁止令の理由をめぐってはガスマスク説のほかに、当時の陸軍副司令官ネビル・マクレディ中将が自分の口ヒゲを嫌っており、全兵士のヒゲ剃り推進に貢献したという背景もある。
なお、20世紀を経て現代に至るまで、戦闘工兵の准士官や軍旗衛兵隊の軍曹にはヒゲを認める伝統があり、義務ではないが多くはヒゲを生やしている。また、ロイヤル・スコットランド連隊やロイヤル・アイルランド連隊などでは、鼓笛隊やバグパイプ隊の隊長らに伝統としてヒゲをたくわえることが期待されている。
カナダ・トロントにあるアンティークショップ「ミリタリー・アンティークス・トロント」の経営者で、英国とカナダの軍の慣習に詳しい軍事伝統の専門家として知られるデービッド・ハイオースは、「英国とカナダの伝統では、ヒゲを伸ばしてもよいのは戦闘工兵だけだ」と指摘。ヒゲ解禁について「このような変化を許したのは、それだけ世界が脱線しているということだ。振り子が逆方向に振れることを願う」と述べた。
英国軍の軍規の変遷を研究してきた作家のベニー・バウも、同じ気持ちだ。「なぜ英国海軍は兵士にヒゲを生やす選択肢を与えているのか、いつも不思議に思っていた。陸軍はガスマスクなど軍装品の着用に支障があるとして禁止してきたのに。海軍兵士は毒ガスの影響を受けないとでもいうのか。英国人にしか思いつかない、奇妙な欠点の1つだ」
最後に、昨年12月にウェールズ近衛連隊が人工知能(AI)を使って作成した、ヒゲを生やした衛兵のイメージ写真を紹介しよう。「きれいに並んだ毛皮の帽子」と「ぴかぴかのブーツ」を着用した衛兵の画像が生成されたのだが、注目すべきは、1850年代のクリミア戦争に従軍していてもおかしくない、ふさふさの顎ヒゲをたくわえていたことだ。
もしかしたらAIがはじき出したのが正解で、ウェールズ近衛連隊はそれを真似しようとしているだけなのかもしれない。
(forbes.com 原文)